特集 PR

決して安住しないダンスの求道者 北村明子インタビュー

決して安住しないダンスの求道者 北村明子インタビュー

インタビュー・テキスト
乗越たかお
撮影:西田香織
2012/09/10

父の「本気の地団駄」が、めちゃくちゃグルーヴィーだった。

―北村さんのエッセイで「父の地団駄が『ダンス的な身体』との出会いだった」というエピソードを読んだことがあるのですが。

北村:そう、私のダンスのルーツはそこなんです(笑)。父は歴史学者で「大化の改新はなかった」という、当時は異端の説を唱えている人でした。だから学会からは受け入れられず、毎日酒を飲んでは暴れていたんです。大人が日常生活で、モノ破壊したりガラスを割ったりするほど暴れるのって、スゴイですよ(笑)。そしていよいよ憤りや悔しさが最高潮まで達すると、いわゆる「地団駄」を踏むんですね。音楽や舞踊の素養がない人でしたが、その地団駄を踏んでリズムを成す姿が、めちゃくちゃグルーヴィーなんですよ(笑)。人間の本物の感情ってこういうものなんだなって、初めて目にした経験かもしれません。心打つ身体の状態。まさにダンスのようでした。「人間の身体が紡ぎ出すリズムって面白いなあ」「言葉には出ない本物の感情ってこれだな」と子どもながらに感じたことが、私のダンスの根底になっていますね。

北村明子

―地団駄を踏む父上の姿は、まさに心と身体が完全に一致した、理想的なダンスの状態ともいえます。

北村:そうですね(笑)。実は父の存在は、今回の作品にも多少関係しているんですよ。今作品の語りで、グンドノさんの母親が亡くなったときの話が語られるんですが、その内容が「7年間も昏睡状態だった母親が、死ぬ間際にフッと元気になって歌を歌った、それはいつも母が歌っていたインドネシアの古い歌だった」というものなんです。実は私の父も亡くなる直前、実兄が来たときに昏睡状態からフッと醒めて挨拶をしたとか、似たような経験がありました。

―ちょっと不思議な話ですね。

北村:私は東京で生まれ育っているので、昔は「そんな不思議な話はあるわけがない」という反感がありましたが、インドネシアでは「死んだ人間が生き返った」とか、スピリチュアルといわれるようなことって、生活の中に自然にある。だからインドネシアで暮らしているうちに、人が死ぬ前に歌ったり元気になったり,呪術師が病気を治したりというのは、見方を変えれば、この生活の延長にある、普通のことなのかもしれないなと思うようになったんです。本作のタイトルにある「dialogue(対話)」とは、「見えないものとの対話」という意味を込めています。

©Witjak Widhi Cahya
©Witjak Widhi Cahya

―本作のタイトルについて、あらためてもう少し詳しくお伺い出来ますか。

北村:ダンスでもアジアでも何でもよいのですが、人が生きていく上で様々な物に所属していく(Belong)とはどういうことなのか、ダンスはどこに属するのか、ということを、それぞれのダンサーの身体を通して探っていきたいと思っています。もうひとつ大きなテーマは先ほど言った「見えないものとの対話(dialogue)」ということです。たとえば「亡父が残した銅鐸のレプリカを見ながら父と会話する」というのは、私にとっては普段から普通にしていることなんですね。また、ダンサーでも武術の方でも、「他者に身体を引っ張られる」というか、「自分一人で動いているわけじゃない」という感覚を一度は感じたことがあると思うんです。「見えない何かと対話することで、自分が持っている以上のパワーが湧く」「生きる力が湧く」ということを感じていただければと思います。

―タイトルの「Belong」には「所属する」と同時に、「ふさわしい場所に収まる」という意味もあります。現代の日本人にとって、身体と魂が本来あるべき場所にたどり着く道を、今作品は見せてくれるかもしれませんね。本日はどうもありがとうございました。

Page 4
前へ

イベント情報

インドネシア×日本 国際共同制作公演
『To Belong ―dialogue―』

2012年9月21日(金)〜9月23日(日)
会場:東京都 三軒茶屋 シアタートラム
料金:一般3,500円 当日3,800円

2012年9月25日(火)OPEN 19:40 / START 20:00(受付開始19:15)
会場:兵庫県 新長田 Art Theater dB Kobe
料金:一般 2,500円 当日 2,800円 学生 2,000円

構成・振付・演出:北村明子
ドラマトゥルク:石川慶
音楽・音楽監修:森永泰弘
音楽提供:スラマット・グンドノ
出演:
北村明子
マルチナス・ミロト
今津雅晴
三東瑠璃
リアント
西山友貴

プロフィール

{アーティスト名など}

振付家・ダンサー、信州大学人文学部准教授。早稲田大学入学後、ダンスカンパニー「レニ・バッソ」を結成。95年文化庁派遣在外研修員としてベルリンに留学。2003年『Enact Oneself』が、『The Independent Weekly』紙、ダンス・オブ・ザ・イヤーに選ばれたほか、代表作『finks』が、モントリオール『HOUR』紙、05年ベストダンス作品賞を受賞。海外のダンスカンパニーへの振付も意欲的に行うほか、演劇、映画、オペラなど他ジャンルへの振付も行っている。2010年からソロ活動を開始。11月Artzoyd企画、マルチメディアコンサート『The Black Particles』(CENTRE D'ENGHEIN LES BAINSにて世界初演)への振付・出演し、ダンサー、振付家として高い評価を得ている。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

あらかじめ決められた恋人たちへ“日々feat.アフロ”

何かを我慢することに慣れすぎて忘れてしまいそうになっている「感情」を、たった10分でこじ開けてしまう魔法のようなミュージックビデオ。現在地を確かめながらも、徐々に感情を回転させていくアフロの言葉とあら恋の音。人を傷つけるのではなく、慈しみ輝かせるためのエモーションが天井知らずの勢いで駆け上がっていった先に待ち構えている景色が、普段とは違ったものに見える。これが芸術の力だと言わんばかりに、潔く堂々と振り切っていて気持ちがいい。柴田剛監督のもと、タイコウクニヨシの写真と佐伯龍蔵の映像にも注目。(柏井)

  1. 広告に冷めた時代のアプローチ。Hondaは「フラット」を提示する 1

    広告に冷めた時代のアプローチ。Hondaは「フラット」を提示する

  2. BTS“Film out”PV公開 back numberとコラボした『劇場版シグナル』主題歌 2

    BTS“Film out”PV公開 back numberとコラボした『劇場版シグナル』主題歌

  3. 大森元貴のソロデビューの意味。2人の視点から『French』を紐解く 3

    大森元貴のソロデビューの意味。2人の視点から『French』を紐解く

  4. 内田有紀、シシド・カフカらが東京の美術スポット巡る 『新美の巨人たち』 4

    内田有紀、シシド・カフカらが東京の美術スポット巡る 『新美の巨人たち』

  5. Perfume Closetファッショントラックの移動店舗がラフォーレ原宿から開始 5

    Perfume Closetファッショントラックの移動店舗がラフォーレ原宿から開始

  6. 『ノマドランド』が映すアメリカの姿。過酷な状況とノマドの精神 6

    『ノマドランド』が映すアメリカの姿。過酷な状況とノマドの精神

  7. いとうせいこう、角舘健悟らが「私の大滝詠一プレイリスト」公開 7

    いとうせいこう、角舘健悟らが「私の大滝詠一プレイリスト」公開

  8. NiziUがNHK『SONGS』リニューアル初回に登場 特技披露&ファン動画企画も 8

    NiziUがNHK『SONGS』リニューアル初回に登場 特技披露&ファン動画企画も

  9. No Busesの「未完成」を楽しむバンド美学 作る喜びが救いだった 9

    No Busesの「未完成」を楽しむバンド美学 作る喜びが救いだった

  10. 内山拓也監督が語る、Uru、平井堅、King Gnuの話題MVの裏側 10

    内山拓也監督が語る、Uru、平井堅、King Gnuの話題MVの裏側