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青森だからこそ生まれた、大震災と原子力を出発点にした2つの演劇

青森だからこそ生まれた、大震災と原子力を出発点にした2つの演劇

インタビュー・テキスト
萩原雄太
2014/11/13

「高校演劇」や「地域演劇」に対して、東京の演劇界は冷淡だ。近年、ようやく変化の兆しが見えつつあるが、まだ演劇は東京を中心とした「大都市」の「大人」によって上演されるものという固定観念が根強く、それに漏れた人々の演劇は「劣ったもの」とみなされる傾向にある。

今年の『フェスティバル/トーキョー14』(以下『F/T14』)で、『さらば!原子力ロボむつ ~愛・戦士編~』と『もしイタ~もし高校野球の女子マネージャーが青森の「イタコ」を呼んだら』を上演する畑澤聖悟は、青森で活動する劇団・渡辺源四郎商店の主宰としてだけでなく、現役の高校教員・演劇部顧問として、所属校を何度も全国優勝に導いている人物。地域演劇、高校演劇という、二足のわらじを履きながら、孤軍奮闘して、独自の演劇を生み出している。

これまで、一貫して「東京では作れないもの」「高校生でなければ作れないもの」にこだわりぬいて創作を行ってきた畑澤。いったい、彼が見据えている「演劇の可能性」とは何か? そして、どのような作品が遠く青森の地から『F/T14』に持ち込まれるのか? 『F/T14』ディレクターズコミッティ代表の市村作知雄をして「東日本大震災を受けて生まれた奇跡のような作品」と言わしめる『もしイタ』と『原子力ロボむつ』、2つの傑作を生み出した秘密に迫る。

PROFILE

畑澤聖悟(はたさわ せいご)
劇作家、演出家、渡辺源四郎商店主宰。1964年秋田県生まれ。青森市を本拠地に全国的な演劇活動を行っている。『俺の屍を越えていけ』で2005年『日本劇作家大会短編戯曲コンクール最優秀賞』受賞。『翔べ!原子力ロボむつ』で『第57回岸田國士戯曲賞』ノミネート。他劇団への書き下ろしも多数。また、ラジオドラマの脚本でも『文化庁芸術祭大賞』『ギャラクシー大賞』『日本民間放送連盟賞』などを受賞。現役の公立高校教諭であり演劇部顧問。指導した青森中央高校および弘前中央高校を、あわせて8回の全国大会に導き、そのうち最優秀賞3回、優秀賞4回を受賞している。
渡辺源四郎商店
渡辺源四郎商店 (@nabegenhonten) | Twitter

僕は高校教員として青森から世間を見て、青森の高校生を通じて世間に触れています。彼らを通じて作品を描くことが、作家としての視点になってるんです。

―畑澤さんは、青森市を拠点に活動する劇団「渡辺源四郎商店」の店主(主宰)でありながら、青森中央高校演劇部の顧問として『全国高等学校演劇大会』で何度も演劇部を優勝に導いています。高校演劇というと演劇ファンでもなかなか馴染みのない世界なのですが、普段はどのような活動をしているのでしょうか?

畑澤:高校演劇には、全国で2000以上の加盟校があります。僕は1996年から、青森中央高校演劇部の顧問を務めているのですが、メインとなる活動は、地区大会から全国大会へと至るコンクールです。この他に文化祭で発表を行ったり、公共ホールで自主公演を行ったりします。

畑澤聖悟
畑澤聖悟

―渡辺源四郎商店で作っている作品と、高校生の演劇部に向けて作る作品では、創作方法や目的も異なるのでしょうか?

畑澤:高校生に向けて戯曲を執筆する場合は、青森に住んでいる高校生が、世間とどのように関わっているかを念頭に置きます。たとえば、初めて『全国高等学校演劇大会』で最優秀賞を受賞した『修学旅行』(2005年)という作品は、イラク戦争を題材にしていました。発想の原点は、どうすればイラク戦争を青森に住んでいる高校生に「わが事」として考えてもらえるか、です。そこで、青森の高校生が修学旅行で沖縄に行く設定にして、戦争のシーンは一切描かず、沖縄からイラクに向かう輸送機の爆音を聞きながら、女子高生たちが他愛もない喧嘩を繰り広げ、それが2004年当時の世界情勢の暗喩になっている作品にしたんです。

―「世間で起こっている事件をわが事とする」という方針は、教育上の理由というのも大きいのでしょうか?

畑澤:それも当然考えていますし、自分の創作の基本としても大切な部分です。僕は高校教員として青森から世間を見ていて、青森の高校生を通じて世間に触れています。だから、彼らを通じて作品を描くことが、作家としての視点になっているんです。

―青森の高校生を通じて作品を作るというのは、アーティストとしてある意味「制約」に感じることはありませんか?

畑澤:そんなことは考えたこともないですね。たとえば、青森と東京の高校生を比較すると、埼玉と東京の高校生を比べた場合よりも断然大きく違います。700キロの距離があることが、逆に特別な視点をもたらしてくれる。それをマイナスに感じることはありませんね。

俳優だけでなく、鑑賞者も育てなければ地域に演劇文化は根付かないですよね。

―日本におけるマジョリティー、スタンダードではないことを逆手に取ることで独自視点の作品が生まれるわけですね。ところで、青森中央高校の演劇部には、どういった生徒が入部するのでしょうか?

畑澤:現在、部員は31名ですが、青森で演劇を観る機会は残念ながら多くありません。生活の中に演劇があるような生徒はまずいません。「声優になりたい」といった、演劇とは別の動機で入部する生徒が多いですね。ですから、渡辺源四郎商店では「アトリエ・グリーンパーク」という拠点を自分たちで作り、劇団公演を行うだけでなく、夏には1週間程度のワークショップも開催しています。そこで、若い人たちに「演劇はおもしろいらしいぞ」と体験してほしいと考えています。東京には演劇を志す人間のための受け皿はいっぱいありますが、青森にはまったくありませんから。

渡辺源四郎商店第15回公演『翔べ!原子力ロボむつ』 撮影:山下昇平
渡辺源四郎商店第15回公演『翔べ!原子力ロボむつ』 撮影:山下昇平

―青森の演劇文化を背負って、活動をしているんですね。

畑澤:演劇文化という意味では、劇団も高校の演劇部も変わりませんし、ひょっとしたら高校の演劇部は、青森における唯一の演劇人養成の場かもしれません。ですから、演劇文化を支える人間を地域に輩出して貢献したいという使命感もあります。

―地域ぐるみで、俳優や演出家などの演劇人を育てるということでしょうか?

畑澤:それだけではありません。もちろん卒業生の中には東京に出て演劇を続けている人間もいますが、俳優だけでなく、鑑賞者も育てなければ地域に演劇文化は根付かないですよね。「高校のときに演劇やったけど、もういいや」という人間を生み出さないようにしないといけない。ですから、演劇部顧問として行っている活動と、渡辺源四郎商店店主として活動していることは、ほぼ同じなんです。

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