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音を操るプロフェッショナル、内田学(Why Sheep?)の音楽論

音を操るプロフェッショナル、内田学(Why Sheep?)の音楽論

インタビュー・テキスト
萩原雄太
撮影:相良博昭

舞台音楽では、舞踏で培った即興の経験値を役立てようと考えています。そういう意味ではジャズに似ているかもしれませんね。

―そんな内田さんが、6月から上演される中谷美紀・神野三鈴主演の舞台『メアリー・ステュアート』のサウンドデザインに関わっているのは、とても意外で驚きました。クレジットも本名の「内田学」になっていて、Why Sheep?や、枯山水サラウンディングではありませんね。

内田:今回は、Why Sheep?でも、枯山水サラウンディングでもそぐわないのではと考えて、内田学として引き受けました。先日出演した「DOMMUNE」もそうでしたが、最近は本名で活動することもあるんですよ。

ダーチャ・マライーニ原作『メアリー・ステュアート』イメージビジュアル
ダーチャ・マライーニ原作『メアリー・ステュアート』イメージビジュアル

―『メアリー・ステュアート』は、演劇のサウンドデザインですが、これまで舞台を手がけた経験は?

内田:舞踏の吉本大輔さんとインプロビゼーションの公演をするなど、ときどきやっています。吉本さんとは、たまたま近所に住んでいて、トレーニングで2メートルくらいある竹馬でよく歩き回っていらしたので(笑)、こちらは勝手に存じ上げていました。あるとき自動販売機の上に腰掛けて休憩されている下を通りかかったところ、「そこの若いの、降りれないからジュース買ってくれ」って声をかけられたんです。

―衝撃的な出会いですね(笑)。

内田:それをきっかけに話すようになって、稽古場にも遊びに行くようになりました。1回コラボレーションしてみようということで、小さな公演をしたところ大成功。韓国でもその作品を発表するようになり、以降、舞台の音楽制作も手がけるようになっていきました。『メアリー・ステュアート』でも、舞踏で培った即興の経験値を役立てようと考えているんです。具体的には、事前にサウンドを仕込んでおくだけではなく、本番中もライブで即興的にオペレーションを行います。そういう意味ではジャズに似ているかもしれませんね。曲目は決まっていますが、アドリブはその度ごとに違うという要素があるんです。

『メアリー・ステュアート』メアリー・ステュアート役・中谷美紀
『メアリー・ステュアート』メアリー・ステュアート役・中谷美紀

―生の舞台ならではの臨場感を楽しめる、と。

内田:映画は、映像に対してミリセカンド単位で音楽を合わせていくことができますが、生で行われる演劇に対して、当然そのように緻密なことはできません。だからこそ、こちらも即興的にリアクションをしていかなければならない。舞台上にはいませんが、後ろで芝居を観ながら舞台の呼吸に合わせて音を紡いでいきます。

イギリス人だけで「本能寺の変」をやっても、NHK大河ドラマのような作品は生まれないように、日本人だからこそできる『メアリー・ステュアート』を作れたらと思っています。

―『メアリー・ステュアート』には、内田さんの他に音楽監督として辻康介さん、リュート奏者として久野幹史さん、笠原雅仁さんの名前もあります。彼らとはどのようにクリエイションを進めていくのでしょうか?

内田:音楽監督の辻康介さんはプロデューサー的な立ち位置で、以前から知り合いでしたが、ちゃんと仕事をするのは今回が初めてです。彼はもともと声楽家でずっとイタリアで暮らしていたので、『メアリー・ステュアート』と同時期のルネサンス音楽のこともよく知っています。さらに二人のリュート奏者が絡むので、クラシカルな部分は大丈夫。ただ、そのままだと古典劇になってしまうので、その可能性を広げるために僕がリュートの生演奏を拾いながらサウンドプロセッシングを施したり、用意した別素材とミックスしたり、アブストラクトな部分を期待されていると思っています。演出上、どこで音を鳴らすかについては決まっている部分がありますが、どのようにその音が響くかは現場での僕の判断に委ねられています。

―今作の演出家であるマックス・ウェブスターは、今イギリスで注目を集める若手演出家ですが、音楽について何か要望されていることはありますか。

内田:まだ稽古に入っていないので、具体的なやりとりは少ないですが、『メアリー・ステュアート』を日本人が上演するというのは、織田信長の物語をイギリス人が上演するようなもの。僕らがいくら歴史的背景を理解したつもりでも、イギリス人と同じ感覚でカトリックとプロテスタントの対立を捉えるのは難しいし、それが面白い部分でもあります。マックスも本国と同じものになるとは考えていないでしょうし、逆にそこで起こる「ハプニング」にも期待しているはずなんです。イギリス人だけで「本能寺の変」をやっても、NHK大河ドラマのような作品は生まれないように、日本人だからこそ生まれる舞台を作り上げていければと思っています。

『メアリー・ステュアート』エリザベス一世役・神野三鈴
『メアリー・ステュアート』エリザベス一世役・神野三鈴

―音楽的には、どのような「ハプニング」が起こりそうですか?

内田:今、リュート奏者たちと一緒にルネサンス期の音楽を研究しているんです。イギリス、イタリア、フランスなど、国別に譜面を探してきて実際に弾いてみる。ルネサンス期の音楽は、バロック以降のいわゆるクラシック音楽よりもシンプルな様式なんですが、そんな歴史的な検証も積み重ねながら、どのように音楽をデザインして現代に蘇らせていくのかを考えています。

―ルネサンスの音楽を研究しつつ、そこに「日本」や「現代性」というパプニングをぶつける。

内田:難しいけどやりがいはあります。過去を舞台にした作品をそのままやっても面白くないじゃないですか。『メアリー・ステュアート』は女優二人のダイアローグで進行していくシンプルな作品ですが、古典的な要素を踏まえつつ、現代につなげられる要素を引き出したいと考えています。そうでなければ、今の日本で上演する意味がありません。

―この作品から「現代性を導き出す」という場合、さまざまな解釈の可能性を含んでいると思います。たとえば、メアリーという為政者の悲劇とも読み取れるし、女性同士の愛憎の物語とも読み取れる。どのような部分に、現代性への可能性を感じますか?

内田:いわゆる王家の話であり、出産や結婚などの世継ぎ問題がテーマの1つとなっています。エリザベスもメアリーも、ものすごいプレッシャーに晒されているんですね。彼女たちのような女性が置かれた立場、状況という意味では現代に通じる可能性を感じますね。何百年も前の世界を舞台にした話ではありますが、今も女性が置かれる立場はそんなに変わっていないのではないでしょうか。

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イベント情報

PARCO Production
『メアリー・ステュアート』
フリードリッヒ・シラー作『メアリー・ステュアート』の自由な翻案

作:ダーチャ・マライーニ
訳:望月紀子
演出:マックス・ウェブスター
衣装デザイン:ワダエミ
出演:
中谷美紀
神野三鈴

東京公演
2015年6月13日(土)~7月5日(日)全26公演
会場:東京都 渋谷 パルコ劇場

大阪公演
2015年7月11日(土)、7月12日(日)
会場:大阪府 シアター・ドラマシティ

広島公演
2015年7月15日(水)
会場:広島県 アステールプラザ・大ホール

名古屋公演
2015年7月18日(土)、7月19日(日)
会場:愛知県 名古屋 ウインクあいち・大ホール

新潟公演
2015年7月24日(金)
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館

福岡公演
2015年7月30日(木)
会場:福岡県 キャナルシティ劇場

リリース情報

Why Sheep? 『Real Times』(CD)
Why Sheep?
『Real Times』(CD)

2014年10月8日(水)発売
価格:2,500円(税込)

1. Rue Pierre Leroux
2. Radiation #1
3. 11th (Away From The Borders, Close To The Borderless)
4. Radiation #2
5. Somewhere At Christmas
6. Grum Sai Grum
7. On My Answering Machine
8. relativisme extreme
9. Mandarake
10. Empathy
11. Senga(Empathy Reprise)

プロフィール

内田学(うちだ がく)

1996年にWhy Sheep?の1stアルバム『sampling concerto no.1 “the vanishing sun” op.138』をリリースし、国内外のメディアで大きな反響を呼ぶ。その後、世界各国を放浪後2003年に2ndアルバム『The Myth And i』が日、欧、米と世界発売される。国内外での公演を精力的にこなす一方、数々のリミックスや映画のサントラ、プロデュース等を手がける。2007年には、音を禅の作庭術になぞらえたサウンドアートプロジェクト「枯山水サラウンディング」を立ち上げクリエイティブディレクターを務める。2014年、UAや海外のアーティストが参加した集大成ともいえる3rdアルバム『Real Times』をリリース。

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