特集 PR

灰野敬二とジョン・ケージ、名曲“4分33秒”を巡る表現者の思い

灰野敬二とジョン・ケージ、名曲“4分33秒”を巡る表現者の思い

インタビュー・テキスト
黒田隆憲
撮影:相良博昭

実験的な音楽をやって、それ風のことを言っていれば、「アート」と見られるのもわかっていたけど、僕はイヤだったから。(灰野)

―会場は1960年代に実験的なアートの聖地とも言われた、草月ホールになるそうですね。

新井:これには理由があって、1962年にケージが“0分00秒”(“4分33秒”第二番とされる曲)の初演をおこなった場所でもあるんですね。“0分00秒”の楽譜には、「なにか日常的に慣れている動作をしてください。それをマイクで拾って、爆音に増幅してください」というような指示が書いてある。ケージは初演の際、この楽譜を舞台上で書いたそうです。

左から:“4分33秒”の譜面、“0分00秒”の譜面
左から:“4分33秒”の譜面、“0分00秒”の譜面

―その音が爆音で響き渡っていた、と。

新井:“4分33秒”の楽譜には「tacet(休止)」、つまり楽器を弾かないという消極的な指示が書かれているだけなんですけど、“0分00秒”は何をやってもそれが自動的にパフォーマンスになるという内容になっていて。

灰野:その話を新井くんから聞いて、「じゃあ草月ホールでやりましょう」と。

新井:じつは灰野さん、草月ホールで演奏したことがないそうなんですよ。サックスプレイヤーの阿部薫さんをはじめ、いわゆる前衛的な音楽家が数多く演奏している場所なんですが……。

灰野:理由は簡単だよ。僕が「ロック」を名乗ってたから(笑)。

新井:ロックじゃダメだったんですか。

灰野:ある意味ではね。ロックを名乗ることは、リスクを取ることだったから。アートや前衛とかそういうものと、ロックは別物とされてきたんです。実験的な音楽をやって、それ風のことを言っていれば「アート」と見られるのもわかっていたけど、僕はイヤだったから。だから、今回はケージだけでなく草月ホールにも決着をつけてやろうと(笑)。

新井:満を持してという感じはありますね。

左から:危口統之、灰野敬二

―長いピアノの歴史の中でも、おそらく初めての試みとなりますね。

灰野:同じようなことを考えた人はいたと思うんですけどね。実際にやろうとしなかっただけで(笑)。だから、ケージの“4分33秒”にしても、なんで彼がやるまで誰もやらなかったかというと、そこに意味性を見出せなかったからだろうと。今回のようなパフォーマンスも、10人くらいまでは試した人はいたかもしれない。そういう、誰でもやろうと思えばできるけれど、誰もやらなかったことをやるという尊さ、失敗するかもしれないけど、諦めずにやってみるっていう。そういう意志を見せることは、今の世の中すごく大事なことだと思うから。

―作品のタイトルは決まっていますか?

灰野:『奇跡』にしようと思ってます。

―今回の作品は灰野さんにとって、とても重要なものになりますね。

灰野:うん、「やっと僕のバカに付き合う人が出てきた」っていう感じかな(笑)。

新井:単にジョン・ケージ批判っていうだけではない。

灰野:ニュー・ケージ(敬二)だからね(笑)。

新井:これはケージの“4分33秒”をめぐる考察から生まれた作品ですが、88本の指で鳴らされる88鍵が聴きたいっていうのは、灰野さん自身の音でもあるんですね。だから、“4分33秒”のことを忘れても、作品として成立すると思うんですよ。これまで、灰野さんの音楽性を理解していた人も、理解できなかった人も、理解できないけど魅了されていた人も、あらためて灰野さんの音楽を理解するためのヒントになるし、すごく助けになると思います。「ああ、こういうことだったのか」と。

灰野:ほんと、わかり易すぎるくらい。みんなで仲良く1つの目標に向かって実証するわけだし、子どもでも楽しめるし。

灰野敬二

―最後に、あらためてジョン・ケージの“4分33秒”に対する思いをお聞かせください。

灰野:繰り返しになるけど、“4分33秒”が提示した「あるがままの音」という感覚は、本来誰しもが持ちえるものだと思います。そして1音を鳴らした瞬間に、1音を大切にした瞬間に、それはわかる感覚だと思います。一度でもわかれば、それは自分自身のいい意味での血になるから、作品という枠は消えていくはずなの。ただ、ジョン・ケージは、そこまで考えていたところもある気がします。『ジョン・ケージ 小鳥たちのために』(青土社、1982年)という本を新井くんにもらって読んでみたら、ジョン・ケージっていい人なんだなって思ってしまった(笑)。ケージのことボロクソ言い続けようと思ったのに、そこで考えがコロッと変わった。2か月くらい前のことですけどね。

新井:本を差し上げないほうが良かったのかも……と、少し後悔しています(笑)。でも、あの本をお読みになってから、コンセプトがより精密になっているとも思いますね。

灰野:単にケージを批判するのではなく、それをも包含することをやりたいという考えになった。この本で、彼の人柄を知れたんです。なんだこの人、イカしてるじゃないって。面白いよ、フリージャズは批判しているけど、ロックは賞賛しているからね(笑)。こんなこと言うと誤解されるかもしれないけど、僕にとってジョン・ケージは「ロックの人」になった。

―ある意味で『奇跡』は、灰野さんからケージへの愛情表現とも言えますね。

灰野:だって、同じケージなんだからしょうがないじゃない(笑)。僕はこれまで、アントナン・アルトー(フランスの演劇家、詩人、小説家)があるとき体の中に入り込んできたって言ってきた。でも、ケージさんとは仲の良い友達になってみたかったなあ。

Page 3
前へ

イベント情報

『サウンド・ライブ・トーキョー』

2015年10月2日(金)~12月23日(水・祝)
会場:東京都 赤坂 草月ホール、六本木 SuperDeluxe、表参道 スパイラルホール、渋谷 シアターイメージフォーラム

『奇跡』
2015年10月2日(金)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京都 赤坂 草月ホール
作曲・指揮:灰野敬二
演出・設計:危口統之
料金:前売2,500円 当日3,000円

『山羊座の歌』
2015年10月12日(月・祝)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 六本木 SuperDeluxe
作曲:ジャチント・シェルシ
演奏:太田真紀(ソプラノ)、溝入敬三(コントラバス)、大石将紀(サックス)、稲野珠緒・神田佳子(打楽器)、有馬純寿(エレクトロニクス)
料金:前売2,500円 当日3,000円

『ケン・ジェイコブス作品上映』
2015年10月下旬
会場:東京都 渋谷 シアターイメージフォーラム
※詳細後日発表

『ナーバス・マジック・ランタン』
2015年11月3日(火・祝)OPEN 18:45 / START 19:00
会場:東京都 表参道 スパイラルホール
ライブ上映:ケン・ジェイコブス、フロ・ジェイコブス
作曲・演奏:恩田晃
料金:前売2,500円 当日3,000円

『ナイショ・ウェイブ・マニフェスト』
レクチャー・パフォーマンス:テーリ・テムリッツ
『バウンス・ハウス』
コンセプト:クリスティン・スン・キム
2015年11月15日(日)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 六本木 SuperDeluxe
料金:前売2,500円 当日3,000円

『東京都初耳区(ライブ・パフォーマンス)』
2015年11月23日(月・祝)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 六本木 SuperDeluxe
出演:多田正美、ジョー・モリス、他 ※後日発表
料金:前売1,500円 当日2,000円

『東京都初耳区(サウンド・インスタレーション)』
2015年12月8日(火)~12月10日(木)14:00~22:00
会場:東京都 六本木 SuperDeluxe
参加アーティスト:
浅野達彦
石橋英子
キャル・ライアル
柴山拓郎
ジム・オルーク
Phew
嶺川貴子
吉原太郎
料金:当日500円
※『東京都初耳区(ライブ・パフォーマンス)』来場者は無料

ウースター・グループ
『初期シェーカー聖歌:レコード・アルバムの上演』

2015年12月22日(火)、12月23日(水)全3公演
会場:東京都 表参道 スパイラルホール
出演:
シンシア・ヘッドストロム
エリザベス・ルコンプト
フランシス・マクドーマンド
ビビ・ミラー
サジー・ローチ
マックス・バーンステイン
マシュー・ブラウン
モデスト・フラコ・ヒメネス
ボビー・マクエレバー
ジェイミー・ポスキン
アンドリュー・シュナイダー
演出:ケイト・ヴァルク
料金:前売3,500円 当日4,000円

主催:PARC – 国際舞台芸術交流センター

プロフィール

灰野敬二(はいの けいじ)

1952年、千葉県生まれ。1970年、エドガー・アラン・ポーの詩から名を取ったグループ「ロスト・アラーフ」にヴォーカリストとして加入。また、ソロで自宅録音による音源制作を開始、ギター、パーカッションを独習する。1978年にロックバンド「不失者」を結成、ハードロックに全く新しい強力で重層的な次元を切り開く。ソロのほか不失者、滲有無、哀秘謡、静寂、Vajra、サンヘドリン、Nazoranai、Hardy Soulなどのユニット、DJ、他ジャンルとのコラボレーションなど多様な形態で国際的に活動を展開。100種類にも及ぶ多種多様な楽器を演奏、170点を超える音源を発表し、確認されただけでも1500回以上のライブ・パフォーマンスを行なっている。

危口統之(きぐち のりゆき)

1975年、岡山県生まれ。劇団「悪魔のしるし」主宰。制作の中で思いついた何かをメンバーたちが方法論も知らず手さぐりで実現していった結果、演劇・パフォーマンス・建築・美術など多様な要素を持つ異色の集まりとして注目される。作風は基本的に、演劇的な要素の強い舞台作品と、祝祭的なパフォーマンス作品という2つの系統。構成員のほとんどが演劇を専門とせず、その表現は演劇のかたちをとりながらも、常にそれ以外の方法や、価値観を組み入れながら制作をしている。参加者が出演者となったり、または、ある人物にとっての日常業務が舞台上に載せられることによって、それを「演劇」と呼ぶなど、役者と観客の関係を融和させる活動が特徴的である。

新井知行(あらい ともゆき)

1974年、横浜生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院文学研究科演劇映像専修修士課程修了。坪内博士記念演劇博物館図書室での資料整理、劇団解体社スタッフ、原水爆禁止運動や非正規労働者組合運動のための映像制作、翻訳業などを経て、2005年ごろよりPARC – 国際舞台芸術交流センター勤務。『PPAF(ポストメインストリーム・パフォーミング・アーツ・フェスティバル)』『TPAM(旧東京芸術見本市/国際舞台芸術ミーティング in 横浜)』『Sound Live Tokyo』などに関わる。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

岩井勇気(ハライチ)『ひねくれとか言われても俺はただ自分が進みたい道を選んでるだけ』

ドリームマッチでの『醤油の魔人 塩の魔人』、ラジオで突如披露した推しキャラケロッピをテーマにしたEDM調楽曲『ダメダメケロッピ』など、音楽的な才能に注目が集まる岩井勇気。今回はミツカン「こなべっち」とタッグを組み、自らがマイクを取ってラップに挑戦。しかもこの動画、岩井がこれまでラジオや書籍の中で言及してきた、珪藻土のバスマットや、海苔、メゾネットタイプの部屋、クラウス・ノミなどのネタが詰まっていて、まさか岩井さんの自宅なのでは……? と隅々まで見てしまう。つぎはぜひ、自作のトラックとリリックによる曲が披露されることを待っています。(川浦)

  1. 映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が突きつける、社会に深く根づく性差別 1

    映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が突きつける、社会に深く根づく性差別

  2. 横浜流星が「つらいかぜ」を打ち砕く プレコールの新CM「闘い続ける」篇 2

    横浜流星が「つらいかぜ」を打ち砕く プレコールの新CM「闘い続ける」篇

  3. ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの 3

    ジョン・レノンが時代に残す闘いの爪痕、ヨーコがもたらしたもの

  4. 木村拓哉を操上和美が撮影『SWITCH』原宿特集に小泉今日子、池田エライザら 4

    木村拓哉を操上和美が撮影『SWITCH』原宿特集に小泉今日子、池田エライザら

  5. King Gnu井口理が獣医師役 野村不動産「プラウド」ブランドムービーが公開 5

    King Gnu井口理が獣医師役 野村不動産「プラウド」ブランドムービーが公開

  6. 高橋一生主演×荒木飛呂彦原作ドラマ『岸辺露伴は動かない』12月NHKで放送 6

    高橋一生主演×荒木飛呂彦原作ドラマ『岸辺露伴は動かない』12月NHKで放送

  7. カルティエの新作キャンペーンに常田大希、池田エライザ、野田洋次郎ら起用 7

    カルティエの新作キャンペーンに常田大希、池田エライザ、野田洋次郎ら起用

  8. 大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤が全音楽記録媒体でリリース 8

    大滝詠一『A LONG VACATION』40周年記念盤が全音楽記録媒体でリリース

  9. YOASOBIがGoogle PixelのCMソングを担当 新曲“アンコール”を起用 9

    YOASOBIがGoogle PixelのCMソングを担当 新曲“アンコール”を起用

  10. スピッツ、全着席のコンサートを11月に東京ガーデンシアターで開催 10

    スピッツ、全着席のコンサートを11月に東京ガーデンシアターで開催