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アーティストから見た「東京」の姿 長谷川祐子インタビュー

アーティストから見た「東京」の姿 長谷川祐子インタビュー

東京都現代美術館『東京アートミーティングVI “TOKYO”―見えない都市を見せる』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相良博昭

日本を含むアジアには、『攻殻機動隊』で描かれたような、脳と身体が切り離された「ポストヒューマン」感覚がある。

―1980年代に日本から発信された文化が、Perfumeを介して、アメリカの若い世代に影響を与えているんですね。

長谷川:そこで、第1章のキュレーションを、1980年代を牽引したYMOと宮沢章夫さんに依頼しました。今回、YMOの『ウィンターライブ'81』の映像を展示していますが、器械体操風の振付、ロシアアヴァンギャルド的なデザインのステージセット、あるいは初期の衣装で着用していた中国の人民服風のファッションは、ミニマルであると同時に、冷戦以降の世界で起こったさまざまなレボリューションを感じさせます。実際にYMOの三人は、ゆっくりと民主化しつつあった中国のオーケストラの演奏からインスパイアされて、非個性的で無表情な顔の演奏家たちが自身の内面に激しい感情を潜ませながら演奏しているイメージを示したかったそうです。とても興奮しているんだけど、それを一切表情に出しちゃいけないというアンビバレンツ。なにかがはじまる感覚と、レボリューションの感覚が非身体性と同居している点も面白いと思うし、それはいまの若い人たちも共感できることだと思います。

YMO+宮沢章夫 キュレーション展示風景
YMO+宮沢章夫 キュレーション展示風景

YMO+宮沢章夫 キュレーション展示風景
YMO+宮沢章夫 キュレーション展示風景

―Perfumeに見られるレトロフューチャー感は、たしかにYMOのコンセプトに類似していますし、あるいはボーカロイド初音ミクの人気にも接続できそうです。

長谷川:いわば「ポストヒューマン」の感覚ですね。欧米的な人間観では、身体と精神が一体である人間性を目指しますが、日本を含むアジアではちょっと違う。アニメーション映画『GHOST IN THE SHELL-攻殻機動隊』で描かれたような、脳と身体が切り離されている、置き換え可能な身体、あるいはガジェット的なものが介入する身体。その感覚は、絶えずハイブリディティー(異種混交性)を推進していく力にもなっていて、逆説的に身体と精神の一体化を志向していくのかもしれない。そこにはエロティシズムがあったり、アブノーマルなものがあったり、脆さがあったりして、それが東京という組織体の魅力になっていると思うんです。

―エロスとアブノーマルという点では、キュレーターの一人でもある蜷川実花はヴィジュアル系や「男の娘」など、異性装的な志向を持つ人も被写体にしていますね。

長谷川:実花さんも本展の核になった人ですね。演出家の蜷川幸雄さんを父親に持ち、小さいころから東京のど真ん中で都市文化を受容してきた彼女が考える、東京のアイデンティティーのあり方を見せてほしいとお願いしました。そのアウトプットが、1980年代に代々木公園に集まっていた竹の子族であり、1990年代初頭のジュリアナ東京のボディコンであり、今日のアイデンティティーを自己演出する自撮りカルチャーの紹介につながっているんです。

蜷川実花 キュレーション展示風景
蜷川実花 キュレーション展示風景

―今回のキュレーションにはEBM(T)という20代後半の若いアーティストユニットも参加しています。彼らには「ポスト・インターネット」というキーワードが与えられていますが、つまり彼らこそが2010年代時点での東京を体現する人である、ということでしょうか?

長谷川:そうですね。EBM(T)は、実際には会ったことがない、Facebookなどでつながったアーティストに出展依頼をしてキュレーションしています。いわゆるクラウドキュレーション。SNSだけで完結する関係性はきわめて現代的ですが、それは同時に、東京をとらえるための新しい感覚も指し示していると思います。

―それはどのような感覚でしょうか?

長谷川:東京にアクセスするポイントの多様性です。出展したアーティストの一人、アメリカ人のテイバー・ロバックは、世界中の都市のアイコンとなる建築を組み合わせたCG上の架空都市・東京を作っていて、そこで使われている3Dデータは、ネット上で1つ50ドルくらいで買ったものなんですよね。それを何百も買って組み合わせる。みんなが映像として見ることができるけれど、実際にはどこにもない都市。けれども、逆に言えば世界のどこからでもアクセスできる、どこにでも存在しうる東京像でもある。

テイバー・ロバック『20XX』2013年 Courtesy: the artist and Team Gallery
テイバー・ロバック『20XX』2013年 Courtesy: the artist and Team Gallery

イェンナ・ステラ『組織 / 有機体』2015年 撮影:森田兼次
イェンナ・ステラ『組織 / 有機体』2015年 撮影:森田兼次

―ロバックのCG作品はとてもリアルに作られていますが、有名テレビゲームメーカーのロゴをふんだんに盛り込むことで、同時に虚構性も際立たせています。

長谷川:また、同じく出展アーティストのイェンナ・ステラは粘菌のリサーチをしていて、A地点からB地点へと最短距離で到達する粘菌の能力と、時間どおりに移動できる東京の素晴らしい地下鉄のシステムをイメージとして結びつけます。これも東京の利便性を「粘菌」という視点から評価するもので、「バイオ+テクノロジー=東京」というビジョンを提示している。テイバーやイェンナがやっているように、多様なマインニング(掘り起こし)によって、浅草や秋葉原、渋谷という、定番以外の東京の潜在性を探ることも本展の大事な目的なんです。

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イベント情報

『東京アートミーティングVI “TOKYO”―見えない都市を見せる』

2015年11月7日(土)~2016年2月14日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室 1階、3階
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)

キュレーター:長谷川祐子(東京都現代美術館チーフキュレーター)
共同キュレーター:難波祐子

『文化事象としてのYMO』
キュレーター:YMO+宮沢章夫
出展作家:
奥村靫正
羽良田平吉
鋤田正義
伊島薫
藤幡正樹

『自己演出の舞台装置』
キュレーター:蜷川実花

『何かが起こる前夜としての東京』
キュレーター:ホンマタカシ
出展作家:
桑原甲子雄
中平卓馬
トーマス・デマンド
赤瀬川原平
大西麻貴+百田有希
黒河内真衣子mame
津村耕佑(FINAL HOME)
Chim↑Pom
丹下健三
川上未映子

『飛べなくなった魔法の絨毯』
キュレーター:岡田利規
出展作家:小金沢健人

『ポスト・インターネット世代の感性』
キュレーター:EBM(T)
出展作家:
テイバー・ロバック
ジェレミー・ショウ
TCF
ジェイムス・フェラーロ
イェンナ・ステラ

『東京と私をつなぐ、極私的な風景』
キュレーター:松江哲明
展示上映作品:
『その昔ここらへんは東京と呼ばれていたらしい』(監督:松江哲明)
スクリーニング&トークイベント上映作品:
『トーキョードリフター』(監督:松江哲明)
『極東のマンション』(監督:真利子哲也)ほか

新作出展作家:
SUPERFLEX
サーダン・アフィフ
林科(リン・ク)
目【め】

休館日:月曜
料金:一般1,200円 大学生・専門学校生・65歳以上900円 中高生700円
※小学生以下無料(保護者の同伴が必要)
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、付き添いの方2名までは無料

プロフィール

長谷川祐子(はせがわ ゆうこ)

京都大学法学部卒業、東京芸術大学大学院修了。水戸芸術館現代芸術ギャラリー、ニューヨーク・ホイットニー美術館研修、世田谷美術館、金沢21世紀美術館で活動。『マシュー・バーニー展』(2005年)などを手掛ける。2006年、多摩美術大学美術学部芸術学科教授、および同芸術人類学研究所所員に就任。同年より東京都現代美術館チーフキュレーターを務める。『イスタンブール・ビエンナーレ』(2001年)、『シャルジャ・ビエンナーレ』(2013年)などの海外展を企画。東京都現代美術館では『うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法』(2013年)、『ガブリエル・オロスコ展』(2015年)などを企画。近著に『「なぜ?」から始める現代アート』(NHK出版新書)、『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』(集英社)など。

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