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アーティストから見た「東京」の姿 長谷川祐子インタビュー

アーティストから見た「東京」の姿 長谷川祐子インタビュー

東京都現代美術館『東京アートミーティングVI “TOKYO”―見えない都市を見せる』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
撮影:相良博昭

京都は「女の子カルチャー」の都市で、東京は「男の子カルチャー」の都市。上京して一番新鮮だったのはそこでした。

―ちょっと話を変えますが、関西出身の長谷川さんから見て、東京はどのような都市だと感じられていましたか?

長谷川:そうですね……。兵庫県で生まれて、18歳から京都に住んでいましたが、関西と東京の違いでパッと浮かぶのは、関西は男の人が「おばさん」っぽいところ。

―「おばさん」っぽい、ですか(笑)。

長谷川:関西の男性は、ある年齢になると「おばさん化」して、まろやかになるんですよ。男性がおばちゃん化していくのを見ていると、関西は「女性カルチャー」の都市なのだと思います。それに対して、東京は「男の子カルチャー」の都市。上京して一番新鮮だったのはそこでしたね。

松江哲明『その昔ここらへんは東京と呼ばれていたらしい』2015年
松江哲明『その昔ここらへんは東京と呼ばれていたらしい』2015年

林科 展示風景 撮影:森田兼次
林科 展示風景 撮影:森田兼次

―男性らしさにギャップがあったんですね。

長谷川:男の子特有の「初々しさ」とか「はにかみ」ってあるじゃないですか。いつまでも少年っぽいというか。東京の男性からは、歳をとってもそれが感じられたんです。そして働いている女の人にはマニッシュな方が多くて、きっぱり、さっぱりしていてベタベタしない。それも新鮮でした。関西は生活するのに快適ではあるけれど、女性性とまったり感のなかで停滞しちゃうところがあって、特に京都は基本的にヨーロッパの感覚なんですよ。簡単には外来者を受け入れない、「着物を着る作法ひとつ間違えても眉をひそめられる」みたいな京都人特有の雰囲気。個人主義的なものが非常に強烈で、そこには連帯感もあるんですが、あくまで距離を置いたうえでの連帯感。

―関東出身の私から京都を見ると、男性的なマッチョさに回収されない連帯感はポジティブに感じます。

長谷川:それはあると思います。しなやかでしたたかな強さ。私が京都の大学に行った理由もそれで、京都大学の人たちは各々に自分が1番だと思っているので群れないんですよね(笑)。私は群れるのが苦手だったので。

スーパーフレックス『フラッグシップ・シェルター』2015年
スーパーフレックス『フラッグシップ・シェルター』2015年

スーパーフレックス『フラッグシップ・シェルター / プラダ ヘルツォーク&ド・ムーロン』2015年
スーパーフレックス『フラッグシップ・シェルター / プラダ ヘルツォーク&ド・ムーロン』2015年

―東京に話を戻すと、長谷川さんは東京を単純に「男らしい都市」としては見ていないということですよね。「男の子」ということは、未成熟であるがゆえの可能性もある?

長谷川:東京は、ロンドンやニューヨークとは違って、確固としたキャラクターを持たない都市だと思います。それぞれ、かつて世界の宗主国であったイギリス、20世紀以降の覇権を握ったアメリカの中枢であり、いずれも金融を司っている。だからこそ世界中の情報が集まり、エンターテイメントもアートも盛り上がる。MoMA(ニューヨーク近代美術館)とTATE(テート・モダン)がアートにおけるモダニズムの二大美術館として覇権を争うというのもわかりやすい構造ですよね。

―同じ大都市でも、似て非なるものだと。

長谷川:ええ。東京は中心がない都市で、港区のキャラ、墨田区のキャラ、という風に地域ごとにキャラクターが拡散している。さらに都市を代表するモニュメンタルな建築物もなく、およそ都市計画というものが存在しない。だからこそ面白いんですよね。中心がないからこそ、常にどこかで変化が起こり続けている。もちろんバブル期の1980年代は国外から流入する人やモノも多く、現在以上に変化が活発だったとは思います。でも、そもそも東京はそのような変化を受け入れる器としての柔軟なプラットフォームがあり、それは現在でも継承されているんです。

サーダン・アフィフ『Her Ghost Friend スリー・トーキョー・セッションズ』2015年
サーダン・アフィフ『Her Ghost Friend スリー・トーキョー・セッションズ』2015年

1980年代の日本の若者たちは、自分たちのことを「カッコいい」と思っていたはずなんです。

―お話を伺っていると、今回の展覧会にはある種の近代批判が垣間見られる気がします。いま世界中で第二次世界大戦後の美術動向をテーマとした展覧会が相次いで行われていますが、それはせいぜい1970年代までを対象にしていて、1980年代以降を扱うものは多くありません。本展はまさに1980年代以降を扱っているわけですが、そこには長谷川さんのキュレーターとしての戦略があるのでしょうか?

長谷川:もちろんキュレーターとしての思いはありますが、ただ、私は積み重ねた歴史を紐解くような「重い内容」が嫌いなんですよ(笑)。1980年代は「戦後」がリセットされたときでもあります。男の子は重いものが好きかもしれないけど。

―たしかに自分も歴史とか大好きですね(笑)。

長谷川:女の人全員がそうではないでしょうけれど、少なくとも私にはポストヒストリー的というか、歴史を別の方法でリーディングしたいという感覚があります。理念で歴史を見るのではなく、現在をアクティベートさせる手段として歴史をとらえ、未来に向けて語っていきたい。1980年代は「軽くて、チャラくて、有意義なことはなにもなかった」と言われがちですが、じつは「オリジナルなものをイチから作ってやるんだ!」という意志を掲げた時代だったと私は思っています。当時の日本の若者たちは、自分たちのことを「カッコいい」と思っていたはずなんです。

ホンマタカシ『東京の子供』2015年
ホンマタカシ『東京の子供』2015年

『“TOKYO”ー見えない都市を見せる』展示風景
『“TOKYO”ー見えない都市を見せる』展示風景

―自分たちを傍観者ではなく、プレイヤーとして認識していた時代。

長谷川:キュレーターとして参加いただいた、チェルフィッチュの岡田利規さんと話して面白かったのが、大駱駝艦(日本の舞踏集団)を主宰する麿赤兒さんなど1960、70年代から活動をはじめた世代は、西洋のパフォーマンスや演劇、身体に対してすごいコンプレックスがあったそうなんです。そのコンプレックスがあったからこそ「暗黒舞踏」と呼ばれる独自の表現を生み出すことができた。けれども岡田さんたち1980年代以降に青春期を過ごした世代は、そんなことは全然想像できないと言います。つまりコンプレックスを持たず、「私は私」というところからはじまっているのがチェルフィッチュの演劇。

岡田利規+小金沢健人『有効期限ぎれマジックカーペット』2015年
岡田利規+小金沢健人『有効期限ぎれマジックカーペット』2015年

岡田利規+小金沢健人『有効期限ぎれマジックカーペット』2015年
岡田利規+小金沢健人『有効期限ぎれマジックカーペット』2015年

―舞踏は、西洋のクラシックバレエやモダンダンスの身体に対するカウンターとして認知されていますが、チェルフィッチュのフラフラ、ダラダラとした身体表現に抵抗や反抗の気持ちはない、と。

長谷川:そこが非常に重要だと思います。軽かろうが、空虚だろうが、それこそ私たちのオリジナルなんですよ。そこには、日本文化の後追いをしている香港やソウルにはない文化の洗練があります。本当にオリジナルなのはK-POPではなく、きゃりー(ぱみゅぱみゅ)さんだとかPerfume。そして、その源はやっぱりYMOの細野さん、坂本さん、高橋さんだったりするんですよ。

―日本や東京の文化を肯定して、その継承性を未来につないでいこうという強い意志を長谷川さんからは感じます。

長谷川:その通りです。東京は経済的にピークを過ぎた都市なのかもしれませんが、多面的であるがゆえに、まだ知らない可能性が眠っているかもしれない。現在のアートシーンのモードは1940年代から1970年代あたりまでの「ポストウォー」を懐古することですが、その潮流を追っているだけではアクティブなキュレーションとは言えません。未来に向けて、どの水脈を探していくのかという、文脈化のやり方を模索し、自分なりの歴史認識を打ち出していくのがキュレーターのリサーチであって、それは歴史家のリサーチとは異なるものです。空気を読みながら、おそるおそる「未来はどうなるのかな?」と思っている人に、けっして未来は作れないんですよ。

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イベント情報

『東京アートミーティングVI “TOKYO”―見えない都市を見せる』

2015年11月7日(土)~2016年2月14日(日)
会場:東京都 清澄白河 東京都現代美術館 企画展示室 1階、3階
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)

キュレーター:長谷川祐子(東京都現代美術館チーフキュレーター)
共同キュレーター:難波祐子

『文化事象としてのYMO』
キュレーター:YMO+宮沢章夫
出展作家:
奥村靫正
羽良田平吉
鋤田正義
伊島薫
藤幡正樹

『自己演出の舞台装置』
キュレーター:蜷川実花

『何かが起こる前夜としての東京』
キュレーター:ホンマタカシ
出展作家:
桑原甲子雄
中平卓馬
トーマス・デマンド
赤瀬川原平
大西麻貴+百田有希
黒河内真衣子mame
津村耕佑(FINAL HOME)
Chim↑Pom
丹下健三
川上未映子

『飛べなくなった魔法の絨毯』
キュレーター:岡田利規
出展作家:小金沢健人

『ポスト・インターネット世代の感性』
キュレーター:EBM(T)
出展作家:
テイバー・ロバック
ジェレミー・ショウ
TCF
ジェイムス・フェラーロ
イェンナ・ステラ

『東京と私をつなぐ、極私的な風景』
キュレーター:松江哲明
展示上映作品:
『その昔ここらへんは東京と呼ばれていたらしい』(監督:松江哲明)
スクリーニング&トークイベント上映作品:
『トーキョードリフター』(監督:松江哲明)
『極東のマンション』(監督:真利子哲也)ほか

新作出展作家:
SUPERFLEX
サーダン・アフィフ
林科(リン・ク)
目【め】

休館日:月曜
料金:一般1,200円 大学生・専門学校生・65歳以上900円 中高生700円
※小学生以下無料(保護者の同伴が必要)
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方と、付き添いの方2名までは無料

プロフィール

長谷川祐子(はせがわ ゆうこ)

京都大学法学部卒業、東京芸術大学大学院修了。水戸芸術館現代芸術ギャラリー、ニューヨーク・ホイットニー美術館研修、世田谷美術館、金沢21世紀美術館で活動。『マシュー・バーニー展』(2005年)などを手掛ける。2006年、多摩美術大学美術学部芸術学科教授、および同芸術人類学研究所所員に就任。同年より東京都現代美術館チーフキュレーターを務める。『イスタンブール・ビエンナーレ』(2001年)、『シャルジャ・ビエンナーレ』(2013年)などの海外展を企画。東京都現代美術館では『うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法』(2013年)、『ガブリエル・オロスコ展』(2015年)などを企画。近著に『「なぜ?」から始める現代アート』(NHK出版新書)、『キュレーション 知と感性を揺さぶる力』(集英社)など。

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