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がむしゃらに走ってきた20代。狭間の世代が語る30代の脱力論

がむしゃらに走ってきた20代。狭間の世代が語る30代の脱力論

□字ック『荒川、神キラーチューン』
インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:田中一人 編集:飯嶋藍子

上はロスジェネ、下はゆとりという、個性の強い世代に挟まれた1980年代半ば生まれのプレッシャー世代が、30代に突入した。消えない青春の残り香と、確実に近付く中年期に挟まれて、中途半端なこの時期をどう生きるのか。それを「こうすべき」ではなく「こうなっちゃうよね」という、かっこ悪いが切実なスタンスで舞台にしているのが□字ックで、作・演出の山田佳奈は、元レコード会社の宣伝部という異色の経歴を持つ1985年生まれの31歳。山田と同い年で、『アフロ田中』『私たちのハァハァ』をはじめとする映画や、クリープハイプなどのPV監督としても活躍しつつ、ゴジゲンという劇団を拠点に持つ松居大悟。松居の作品に出演経験があり、□字ックの次回公演『荒川、神キラーチューン』に出演する女優の町田マリーの三人で、創作と性差、音楽についてなどをざっくばらんに語り合った。

演劇の世界で劇団の主宰をしていて、女の子扱いされたら負けだと思っていたんです。(山田)

―今回、山田さんから「次回作で主演してもらう町田さんと、ずっとファンだった松居さんと話がしたい」というリクエストがあってこの鼎談が実現しましたが、山田さんは松居さんの作品のどんな点がお好きなんでしょう?

山田:松居さんの舞台は、私には絶対書けないものだって思っていて。

松居:そうなんですか?

山田:松居さんの舞台は、男子の青春モノじゃないですか。青春って、女子では成立しにくいと思うんですよ。例えばバンドを追っかける女子は多いけど、バンドをやる女子は結構限られる。スポーツも男子がやれば青春っぽいけど、女子がスポーツに打ち込むと女子扱いされないというか。一体なんなんだっていう……。

松居:あはははは、確かに。僕は、20代前半ぐらいの頃は、ひたすら男子の青春を描こうと思っていましたね。

山田:私も20代前半の頃は、男の人に負けたくない、女性扱いされたくないという気持ちがめちゃめちゃ強い時期だったせいか、余計に気になったし、羨ましかったんですよね。

左から:松居大悟、町田マリー、山田佳奈
左から:松居大悟、町田マリー、山田佳奈

松居:でも、正直に言うと僕の場合は結果的に男中心の劇になった部分もあるんですよ。女性が入ったら緊張して、かっこつけちゃって、劇に集中できなくなるから(笑)。あと、演劇にしかできないことをやろうという意識が強かったかもしれない。それで、男中心にしたり、「物語を壊してみよう」とか、いろんなことを試した結果、動けなくなって劇団の活動を休止したんですけど。

山田:松居さんは、人間の描き方がすごいですよね。演劇の『極めてやわらかい道』(2011年)の時に、10年間、1人の女性をストーキングしている引きこもりの男性が、あるシーンで桃をむしゃぶり食ってたじゃないですか。言葉じゃなくて、ああいう気持ちの描き方がたまらないんです。

―最近の□字ックには「男子だから」「女子だから」という線引きはあまり感じませんが、そのあたりはいかがでしょう。

山田:そこは丸くなりました。24歳で劇団を立ち上げたんですけど、初期の頃は自分が女であることがイヤでイヤで仕方なかった。演劇の世界で劇団の主宰をしていて、女の子扱いされたら負けだと思っていたんです。外とは戦わなきゃいけない、役者さんは守ってあげなきゃいけない、だから女性性なんて出しちゃダメだと。

山田佳奈

町田:どうしてそんなに強く思い込んでいたんですか?

山田:レコード会社の宣伝マンだったことが影響していると思います。私がいた会社は宣伝部に面白い人しか配属されなくて、完全に体育会系のノリだったんですよね。他社の女の子のきらきらした話を聞いて「なんで私の会社はこうじゃないんだ」と思いながらずっと仕事をしていて。それもあって、自分が劇団を作ってリーダーになるなら自分の性を滅しなければ、という考え方になったんだと思います。

松居:ちょっと極端だけどね(笑)。

「もう完全に負けです、どうしたって女の人には勝てません」って認めた瞬間に、女性をどうとでも描けると思えた。(松居)

山田:でも「この部分では男に負けるけど、勝っている部分もあるよね」と思うようになって、だんだん楽になってきました。「男とか女じゃなく、人間を描こう」って考えられるようになったんですよね。泥水をかき混ぜて置いておいたら、下のほうの泥と上澄みのきれいな水に分かれるじゃないですか。人間もそういうものだと思うんです。以前はずっと、泥の部分にばっかり手を入れて、そこで砂金を探す作業をしていたというか。

松居:ああ、それ、わかる。大概の人は同性を、特に僕はダメな男を肯定したくなるんですよね。だから僕は、男や童貞を肯定するために女性を描くというやり方しかできなかったんです。それが「もう完全に負けです、どうしたって女の人には勝てません」って認めた瞬間に、女性を否定も肯定もせず、どうとでも描けると思えたんですよね。だって、女性のことなんてそもそもわからないから。役を演じる女性に、女性目線で台詞や動きの筋が通っているのか聞いて、あとはその人に感情さえ流し込んでもらえたらいいと思って。そうしたら、男も女も同じように描くのが楽しくなった。

松居大悟

―女性性、男性性の話でいうと、町田さんは毛皮族という女性だけの劇団で、かなり露出の多い性的な表現にも携わっていましたが、どういう意識で舞台に立っていらしたのでしょう?

町田:性的な表現は、それこそ女性しかいないからか、それがどれくらい過激なのかわからなくなるし、体調が悪くても、こんなことしたら怪我するかもしれないと思っても、面白いと思ったら、ついやってしまうのが役者というか(笑)。お客さんが笑ってくれるから、それで救われていたし、楽しかったんですよね。

町田マリー

―でも毛皮族はかっこよかったですよ。若くてきれいな女優が何人も出てきてニプレスで歌い踊れば、普通だったら客席の劣情のほうが大きくなって、それに負けて作品や集団全体の空気が汚れてしまうことが多いんですよ。でも毛皮族の舞台には常にポジティブなパワーがあって、劣情に負けなかった。

町田:そうですね。やっぱり男のお客さんが多かったんですけど、最初はエロを見に来ていたその人たちが、毛皮族の笑いの部分をだんだんとつかんで、先陣を切って笑ってくれるようになり、毛皮族の面白さを客席全体に伝えていってくれた感覚でした。途中からは、その人たちがポジティブなエネルギーを出してくれて、舞台にいる私たちを守ってくれていたという。

松居山田:いい話だ……。

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イベント情報

□字ック第十一回本公演
『荒川、神キラーチューン 再演』

脚本・演出:山田佳奈
出演:
町田マリー
小野寺ずる(□字ック)
日高ボブ美(□字ック)
鬼頭真也(夜ふかしの会)
石橋穂乃香
エリザベス・マリー(CHAiroiPLIN)
大塚宣幸(大阪バンガー帝国)
傳田うに
青山祥子
とみやまあゆみ
濱田真和(Superendroller)
安川まり(さいたまネクスト・シアター)
澤田育子(good morningN゜5/拙者ムニエル)
納葉
かさいみよ
鈴村悠
田島冴香(東京タンバリン)
龍野りな
花村雅子(えうれか)

東京公演
2016年6月29日(水)~7月3日(日)
会場:東京芸術劇場シアターウエスト

豊橋公演
2016年7月9日(土)~7月10日(日)
会場:愛知県 穂の国とよはし芸術劇場PLAT アートスペース

『イヌの日』

2016年8月10日(水)~8月21日(日)
会場:東京都 下北沢 ザ・スズナリ
作:長塚圭史
演出:松居大悟

出演:
尾上寛之
玉置玲央
青柳文子
大窪人衛
目次立樹
川村紗也
菊池明明
松居大悟
本折最強さとし
村上航

プロフィール

山田佳奈
山田佳奈(やまだ かな)

神奈川県出身。□字ック(ロジック)の作家・演出・役者。レコード会社のプロモーターから演劇の世界へ。サンモールスタジオ2013年最優秀演出賞を受賞、演劇ポータルサイト「CoRich舞台芸術まつり!2014」グランプリ、2014年度サンモールスタジオ最優秀団体賞受賞。バンドのライブ総合演出や音楽界の『夏フェス』ならぬ小劇場界の『鬼フェス』を主催し、全団体の総合プロデュースを行うなどエンターテイメント業界でマルチに活躍中。また、自身が脚本・監督を務めるMOOSIC LAB2016参加作品『夜、逃げる』の上映や、カルチャーミックスフェス「オハラ☆ブレイク,16夏」(猪苗代湖岬)への参加などが、今夏控えている。

松居大悟
松居大悟(まつい だいご)

福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰。2012年『アフロ田中』で映画監督としてデビュー。その後、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』や『スイートプールサイド』など作品を発表し、『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』で第7回TAMA映画賞の最優秀新進監督賞受賞。ミュージックビデオ監督やコラム執筆など活動は多岐にわたる。2016年冬に監督作『アズミ・ハルコは行方不明』が公開予定。2016年8月に演出する舞台『イヌの日』が上演。

町田マリー
町田マリー(まちだ まりー)

千葉県出身。立教大学在学中に江本純子と劇団「毛皮族」を旗揚げし、看板女優として活躍。その他『日本人のへそ』、『サド侯爵夫人』、『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』など客演多数。また近年はTVドラマTBS『変身インタビュアーの憂鬱』、YTV『恋愛時代』や映画『恋の罪』(園子温監督),『俺俺』(三木聡監督)、『ワンダフルワールドエンド』(松居大悟監督)などの映像作品でも活躍。そして昨年はKERA・MAP『グッドバイ』(第23回読売演劇大賞最優秀作品賞受賞)に出演するなど充実した活動をしている。

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