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本当に高いプレゼン力とは? 菊地敦己×Aokidがコンペを経て熱弁

本当に高いプレゼン力とは? 菊地敦己×Aokidがコンペを経て熱弁

第16回『1_WALL』
インタビュー・テキスト
杉原環樹
撮影:鈴木渉 編集:飯嶋藍子

「『1_WALL』ほど、長い時間をかけて作品を見るコンペはない」。そう語るのは、デザイナーの菊地敦己だ。かつて『ひとつぼ展』として知られた、グラフィックと写真の二部門を掲げるこのコンペは、2009年のリニューアル以降も若手クリエイターの登竜門として親しまれてきた。

長年、審査員を務める菊地によれば、その選考過程で審査員と応募者の間に交わされるコミュニケーションは「愛と憎悪」に満ちたものだと言う。今回、そんな菊地と、2015年にグラフィック部門のグランプリに輝いたアーティストAokidを招き、『1_WALL』を皮切りに対話をしてもらった。

少年期からブレイクダンスに没頭してきたAokidは、その身体性を軽やかな線と明快な色彩を持つドローイングに落とし込み、新たな表現の領域を開拓する『1_WALL』の常連だ。同コンペが既存の枠に収まらない応募者を発掘する背景とは何なのか。両者の会話は、コンペに臨む者の姿勢、現在におけるジャンル拡張の必然性にも及んだ。

何回もプレゼンの場があったり、展示をやらせてもらえたりすることで、できることが広がる。(Aokid)

―Aokidさんは、2015年の第12回グラフィック『1_WALL』でグランプリを受賞されましたが、このコンペの常連だったそうですね。

Aokid:はい。応募が7回目、ファイナリストへの選出が3回目で、グランプリを獲れました。

左から:菊地敦己、Aokid
左から:菊地敦己、Aokid

―グラフィック部門で審査をされていた菊地さんは、Aokidさんのことを気にかけていて、グランプリ受賞の一報を聞いて会場に駆けつけたとお伺いしました。

菊地:たまたま近くにいただけです(笑)。Aokidだけを気にかけていたというわけではなくて、『1_WALL』そのものが気になっていたんですよ(笑)。

Aokid:(笑)。

―そうなんですか(笑)。

菊地:僕は「審査員だから」という理由ではなく、『1_WALL』にはいつも非常に注目しているんです。今は写真部門の審査員をしていますが、グラフィック部門の審査も長くやらせていただいたので動向が気になる。公開審査もなるべく行くようにしています。

―審査員としてずっと見る中で、Aokidさんの変遷はどう映っていましたか?

菊地:2011年に初めて応募してきたときは、すごくキラキラした男の子だな、と。でも、作品はだいぶ怪しかった(笑)。ポートフォリオにもよくわからない新聞記事が入っていたり、「ブレイクダンスをやっています」と書かれていたり。

左から:菊地敦己、Aokid

Aokid:その新聞記事は、大学3年生でブレイクダンスの世界大会に出場したときのものです。

菊地:そうだ。「ブレイクダンス? 何それ!」と思ったのを覚えている(笑)。そう思ったけど、今「グラフィック」という世界は、いわゆる平面デザインだけではなく、もっと総合的な表現方法になってきている。

複数の手法を同時に扱う制作者が増えたので、Aokidの身体表現とグラフィックを掛け合わせる表現も腑に落ちて面白かったんです。作品としての定着感はなかったけど、ドローイングを運動から捉えるという視点は素直だし、回を重ねるにつれて、その繋がり方も洗練されていった。それは見ていてとても気持ちよかった。

Aokid:最初は本当にノリで出したんです。写真をやっている友達が『1_WALL』に出していて、「こんなコンペがあるんだ」と思ったのがきっかけで。そのときは美術大学を卒業したばかりで、絵を続けるべきなのか迷っていたんです。

当時ダンスカンパニーに入っていて、『1_WALL』にはパフォーマンスのときに偶然できた絵を送ったのですが、自分でも自分のやっていることがよく分からなかった。でもファイナリストになって、審査員の方が今まで気がつかなかったことを指摘してくれて、こんなふうに絵を見てくれる人がいるんだということが分かったから、絵を続けられたんです。

Aokid

―自分では言語化できていないものを、プレゼンの中で発見するのが面白かった?

Aokid:そうですね。僕は美術大学で映画専攻だったので、絵に対する評価はほとんどされたことがなかったんです。だから『1_WALL』での審査員との一歩踏み込んだコミュニケーションは新鮮でした。

それと、応募が無料であることや、既存のジャンルに収まらない受賞者がいることもあり、「間口が広いコンペ」という印象もありました。審査員にも菊地さんをはじめ、グラフィックの世界において変わったアプローチをされている方が多くいるので、いろんな受け止め方をしてくれるんです。

Aokid展『ぼくは“偶然のダンス”の上映される街に住んでいる。』より
Aokid展『ぼくは“偶然のダンス”の上映される街に住んでいる。』より

―この「グラフィック」という部門の設け方が、ジャンルを広げていますよね。「グラフィックデザイン」だったら、おそらくダンスは対象から逸脱してしまう。

菊地:前身の『ひとつぼ展』のときは「グラフィックアート」だったのですが、応募作品がかなりアート寄りのものが増えたので、もう少し幅広い作品を見たいと「アート」を取ったそうです。

『日本グラフィック展』や『JACA展』など、往年のグラフィック系のコンペがどんどん無くなって、行き場を無くしたイラストレーションやグラフィックアートが流入してきたんでしょうね。今はデザインもアートも含めて、広く「可能性を探す」ことが主な目的になってきています。

Aokid:それが僕のような、ひとつのジャンルで括れない表現をする人間にとってはありがたいことでした。過去の受賞者を見てもわかりますが、複数の分野で表現をしている人は多いと思うんです。

応募方法も、作品を提出するだけなら、僕はダンスを見せる場所がなかった(笑)。でも、何回もプレゼンの場があったり、展示をやらせてもらえたりすることで、できることが広がっていると思います。

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イベント情報

第16回グラフィック『1_WALL』

応募受付期間:
[グラフィック部門]
2016年11月23日(水・祝)~11月30日(水)
[写真部門]
2017年1月12日(木)~1月19日(木)
審査員:
[グラフィック部門]
えぐちりか(アートディレクター、アーティスト)
大原大次郎(グラフィックデザイナー)
白根ゆたんぽ(イラストレーター)
大日本タイポ組合
室賀清徳(『アイデア』編集長)
[写真部門]
飯沢耕太郎(写真評論家)
菊地敦己(アートディレクター)
鈴木理策(写真家)
高橋朗(PGI ギャラリーディレクター)
百々新(写真家)

プロフィール

菊地敦己(きくち あつき)

アートディレクター / グラフィックデザイナー。1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学彫刻学科中退。1995年在学中にデザインの仕事を始め、1997~98年「スタジオ食堂」のプロデューサーとして現代美術のオルタナティブスペースの運営、展覧会企画などを手掛ける。2000年デザインファーム「ブルーマーク」を設立、2011年解散、以降個人事務所。主なデザインの仕事に、青森県立美術館のVI計画、横浜トリエンナーレ2008のVI計画、ミナ ペルホネン、サリースコットのブランド計画、雑誌『「旬」がまるごと』のアートディレクションなど。作品集に『PLAY』。

Aokid(あおきっど)

アーティスト、振付家。1988年東京生まれ。2010年東京造形大学映画専攻卒業。卒業後、ダンスカンパニー東京ELECTROCK STAIRSなどに参加した後、現在は「aokid city」、「どうぶつえん」などの企画を行う。発表はヴィジュアルアート、パフォーマンス、ブックやインスタレーション、劇場型作品、ゲリラライブに取り組むなど状況に応じてあらゆる方法を使って取り組む。また他のアーティストなどとコラボレーションによる作品制作も積極的に行う。2015年篠田千明『非劇』出演。横浜ダンスコレクション2016審査員賞。第12回グラフィック『1_WALL』グランプリ受賞。

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