藤井隆に訊く、SNSで話題を呼んだ90年代のCM風プロモ動画の裏側

藤井隆がおよそ2年ぶりのアルバム『light showers』をリリースした。冨田謙をプロデューサーに迎え、「1990年代の音楽」というテーマのもと、西寺郷太や堂島孝平、EPO、澤部渡(スカート)ら豪華作家陣が楽曲を提供し、そこに冨田が現在進行形のダンスビートを融合させることによって、懐かしくも新鮮なサウンドスケープを作り上げている。もちろん、独特のバリトンボイスを持つ藤井のボーカルも健在だ。

さらに驚いたのは、アルバム発売に先駆け公開されたティザー映像のクオリティーの高さ。アルバムの全収録曲に、15秒の映像をつけた架空のCM集は、隅々までこだわり抜かれている。今回、アートディレクションは藤井自身が担当し、前作に引き続き高村佳典は彼のサポート役に徹したという。二人のやりとりはどのように行われ、今作の不思議なアートワークやマニアックなティザー映像が作られていったのだろうか。対談の行方は、藤井がアートディレクションを務めたという話題を発端に、自身の今までと現在の心境の変化にまで話は及んだ。

高村さんにお声がけしたときには、アルバム収録曲それぞれのCMのイメージもすでにあったんです。(藤井)

―アルバムのリリースに先駆けて公開されたティザー映像がめちゃくちゃ凝っていて驚きました。あのアイデアの出発点はどこにあったのですか?

藤井:去年の11月、僕が主宰するレーベルのイベントで「アルバムを作ろうと思います」と発表させてもらったときには、すでに漠然としたイメージがありました。でも、本当は何がしたかったのかというと、CDのプラケースに、タイアップした企業のロゴがズラッと並んだステッカーを貼りたかったんです。

一同:(笑)

藤井隆
藤井隆

藤井:『Coffee Bar Cowboy』(2015年)を作ったときは、共同プロデューサーのひとりだった西寺郷太さん(NONA REEVES)に「棺桶に入れるつもりで好きなことをやってください」と言っていただいて、ある意味やりきった感があったんです。

でも、やりきったと言いつつ、そのあとの怒涛の全国ツアーが楽しくて、「いつか機会があれば、またアルバムを作りたいなあ」と思うようになって。やるなら「90年代の音楽」をテーマにしたいというアイデアも、そのときには何となくあったんです。それに、音楽面とは別に、「高村さんともまた何かやりたい」という気持ちもあって。アルバムの制作を発表したのは、そういうイメージの点と点がまだ線でつながらない段階だったんですよ。

―今作の共同プロデューサーは、前作に引き続き冨田謙さんです。

藤井:アルバムの話が具体的になっていくなかで、「一緒にやるなら冨田さんしかいない」と思いました。冨田さんに断られたら作るのをやめようと思っていたくらいで。実際にお会いしてアルバムのイメージをお話ししたら、「それって90年代の感じじゃない?」と冨田さんにも言っていただいて、そこで自分のなかでフォーカスがギュッと絞られましたね。

藤井隆

―藤井さんが、90年代の音楽に思い入れがあるのはなぜなのでしょう。

藤井:その頃に一番音楽を聴いたんですよ。1992年に芸人としてデビューして、1995年に東京へ進出する頃には、学生だった80年代と違ってお金を気にすることなくCDが買えるようになっていたので、新幹線での移動中など、とにかくたくさん聴いていました。それに90年代は、音楽番組もたくさんあったし、深夜のテレビCMで新しい音楽を知ることも多かったんですよね。

―それこそ90年代は、CMタイアップがついてシングル曲が爆発的にヒットするっていう時代でしたよね。

藤井:そうですね。浜崎あゆみさんや安室奈美恵さんの当時のアルバムって、ほとんどの収録曲にタイアップがついてたから、ジャケットが隠れちゃうくらい大きなステッカーが貼ってあって。まずは映像が頭に思い浮かぶことが多いので、高村さんにお声がけしたときには、アルバム収録曲それぞれのCMのイメージもすでにあったんです。

高村:そこから曲ごとに、これはどんな企業のどんな製品で、CMはどんな感じにするのか、どんな映像のイメージかっていうのを箇条書きでいただいて。その時点で「今年は冬までアツイ」「ボクに近づくな。音楽に近づけ。」っていうコピーも全部決まっていたんです(笑)。

それを叩き台に、今度は僕がロゴを作って、絵コンテを描いて、現実的な撮影プランに落とし込んで、例えば90年代だけど、ノスタルジーに走ることが目的ではないから、画角を4:3にはするけど、画質はあえて今風のままにしましょう、みたいなディテールも、何度かやりとりしていくうちに固まっていきました。

左から:藤井隆、高村佳典
左から:藤井隆、高村佳典

―楽曲が出揃った段階で、架空のCM集にするというアイデアが浮かんだというよりも、楽曲やアルバムよりも先行してこのティザー映像のイメージがあったんですね(笑)。そもそも、CMを作りたかったっていうところも大きいのかなと思いました。

藤井:子どもの頃からCMディレクターに憧れていましたので。今回は架空のタイアップだったので言いたいセリフや撮りたい場面など詰め込めました。実際のCMの制作現場もすごく好きなので、10本の撮影もスケジュールは大変でしたが楽しかったです。

(90年代のCMには)思わず見入ってしまうパワーがある。(藤井)

―不倫映画『まばたき』は、わざわざ公式サイトまで作っていますよね(笑)。CMに出てくるコンパクトカメラやアイスクリーム、腕時計もこのCMのために作ったのですか?

藤井:そうです。衣装は撮影の前日に自分のシャツに飾りを縫いつけたり、夜通しやっていました(笑)。

実際にCMで使われた架空の商品。すべて高村の手作り
実際にCMで使われた架空の商品。すべて高村の手作り

藤井:時間も予算も限られていましたけど、「アイデアや発想の転換で」というよりも、「高村さんはどうやったら笑ってくれるやろか?」とか、「撮影スタッフの人たちが一生懸命やってくれてるから、絶対に一発で決めよう」とか、「マネージャーが期待してくれるから頑張ろう」というのが大きかったです。

―藤井さんが1990年代のCMに魅力を感じるのはなぜでしょう?

藤井:思わず見入ってしまうパワーがあるからですかね。15秒とか30秒の映像に、ものすごい手間暇をかけるなんて贅沢ですし、監督やクライアント、演じる役者さんたちのこだわりみたいなものを、子どもながらに感じていたんだと思います。

―実際のCM撮影現場に行って気づくことってありますか? やはりCMは芸術作品ではないので、クライアントの意向を聞きつつというところがあるのだと思いますが。

藤井:僕自身は、監督さんが表現したいこともクライアントさんの意向も両方理解できるんですよ。クライアントさんの意向を「はい、わかりました!」と受け止めつつ、「でも、ここは……」って監督さんがギリギリのところで自分の表現したいことを守ろうと僕に相談してくれるとゾクゾクしますね(笑)。全力で応えたくなります。

藤井隆

―それってすごくプロフェッショナルなことですよね。「自分の表現」を追求することよりも、クライアントが喜んでくれることのほうが嬉しかったり、そういうところにやりがいを感じられたりするのは、タレントとして活躍されてきた20年以上の積み重ねなのかなと思いました。

藤井:デビューしたての頃に、恥ずかしくて写真や映像でうまくできなくて。撮られ方ややり方をたくさん叩き込んでいただきました(笑)。

(アートワークは)……すみません、今回もわかりづらいですよね(笑)。(藤井)

―アルバムのアートワークについてもお聞きします。前作のジャケットの警察官には一目見ただけではわからないコンセプトがあったそうです(参考記事:藤井隆が明かす、知られざるアートディレクターとしての顔)が、今回も裏テーマはありましたか?

藤井扮するジャケットの警察官がフィーチャーされたトレーラー映像

藤井:裏にメッセージを隠してるつもりないです! 今回は高校生のときにアルバイトをしていた、ゴルフの打ちっ放し場で撮影をしたんです。そこで昔、球拾いをやっていたんですね。今回、葉山拓亮(Tourbillon)さんやEPOさんっていう自分がすごく好きな人、それからシンリズムくんやスカートの澤部(渡)くんのような才能持った若い方、もともと仲良くしてくださっている堂島孝平さんや西寺郷太さんという信頼できる方たち、そして叔母のYOUさんと(笑)、初めましてのRISさん。

そんな人たちにリクエストをお渡しして、楽曲で返していただく、そしてたくさんの方々のお力で作品としてまとまっていく――そういうふうに好きなものが回収されていくというのは、つまりゴルフ場でいうところの球拾いみたいなものかと。……すみません、今回もわかりづらいですよね(笑)。

藤井隆『light showers』ジャケット
藤井隆『light showers』ジャケット(Amazonで見る

高村:写真は「こういうカットを撮ります」って決めて撮りに行ったのではなくて、ロケ場所に許可をいただいて、当時のように藤井さんが球拾いをしている様子を一連の流れで撮影しました。前作のときは藤井さんのラフを元にキメ打ちで撮っていったので、それとはだいぶ違う雰囲気になりましたね。

実際にゴルフボールを拾う藤井。ブックレットより / 撮影:川内章弘
実際にゴルフボールを拾う藤井。ブックレットより / 撮影:川内章弘

ブックレットより / 撮影:川内章弘
ブックレットより / 撮影:川内章弘

藤井さんにとってピンと来てないことでも結果、アルバムに注目してもらえるならラッキーじゃないですか?(高村)

―今回、アートディレクターは高村さんではなく、藤井さんのお名前がクレジットされていますよね。

藤井:そこも高村さんと、とことん話し合いました。今回、サウンドは冨田さんにすべてお願いしていますけど、映像やアートワークは高村さんに委ねたかったんです。でも、高村さんはそこを絶対に譲らなかったんですよ。「藤井がやるべきだ」と言って引かなかった。でも僕は僕で譲らなかったし、しまいには青山のデニーズでめちゃくちゃ言い合いになったんです(笑)。

高村:僕としては、そもそも藤井さんから「今回はCMでいきたいんです。タイアップシールをジャケットに貼りたいんです」って持ちかけられた時点で、これはもう僕が監督でもアートディレクターでもないなと思ったんです。そこまで藤井さんのなかでイメージがあるのなら、そこをふくらませていったほうが得策ですし。おかしかったらお互いに言い合いましょうってことだけ決めて、藤井さんから聞いたイメージを僕が具現化していくところから始めていきました。

高村佳典

藤井:監督をやるなら僕自身はCMに出演しないつもりだったんです。でもそう伝えたら、高村さんからは「いやそれはおかしいでしょ!」と。結局出ることになりましたけど、正直撮影中もずっと納得いってなかったんですよね(笑)。「これ、他の人がやったほうが絶対面白いのに」って。

高村:やるならできるだけ多くの人に見てもらいたいし、藤井さんにとって多少ピンときてないことでも、少しおさえてもらった結果、アルバムに注目してもらえるならラッキーじゃないですか? まず、説得力が全然違うと思いましたし。そう考えて提案したら、予想以上に強く拒絶されたので、最初は「あれ? どうしよう」と思いました(笑)。ここは僕も曲げずに説得し続けましたけど。

藤井:ちょっと前なら、こういうことはしなかったと思います。自分の頭にあることを「こうなんです」って発表してもあまり面白くないのでは? と自信がなかったんです。「面白いですね」「すごくいいですね」と言ってくれる方がいてくださると本当に嬉しくなるんですけど、「マニアック」とか「コア」って言われるとそんなつもりじゃないので、自分のアイデアにがっかりするときもあります(笑)。

今の藤井隆って中途半端なんですよ。(藤井)

―藤井隆として何か活動を行ったり、作品を作ったりすること、それを世の中に発表することに対して思うところがある?

藤井:たとえば20年ぐらい前だったら僕もフレッシュだったので、新しいことにチャレンジしても「なんだか楽しそうなことをやってるね。あははは!」と笑っていただけたかもしれません。でも、年齢的にも存在としてフレッシュ感もなければ抜群の安定感もなくて、何か発表したり参加したりしたとき、その反応に戸惑うこともあります。今の藤井隆って中途半端なんですよ。

それに、いわゆる「通常業務」ではないとされている芝居や音楽の仕事をして取材していただくときに、やたらと「あなたの肩書きはなんですか」とか「役者として」「俳優として」「ミュージシャンとして」と質問されたりすると、「デビューしてから今まで自分の存在の仕方に何か問題があったのか?」と自分自身の存在の仕方に対してうんざりしてしまいます。

―「芸人なのに」とか「どうせ藤井隆でしょ」っていうふうな世間からの見られ方に嫌気がさしたんですかね。

藤井:視聴者の方やお客様には嫌気がさすことはないです。それを告知させていただいたり、番組に出演させていただいたりする際、ディレクターさんや構成作家さん、取材してくださる方に「芸人なのになぜ?」という前提で話を進められると嫌気がさします。

その人たちが「芸人の活動外」と思っている仕事をしたとき、その人たちに自分が馬鹿にされるのはいいんです。でも、真剣に向き合ってくださった僕の奥にいる支えてくれた人たちまで軽く扱われると、「藤井隆だからか」と申し訳ない気持ちになります。芸人の諸先輩方が過去にいろんなジャンルの仕事を経験なさっているのを見て育ってきたので、僕も腐らず頑張ろうと思います。それに多くの世間の方はそこまで僕に興味ないでしょうし、特別なことと思われてないので救われます。

左から:高村佳典、藤井隆

―前作にはご自身で作曲を手がけた曲もありましたが、今作は3曲の作詞を手がけているのみ。曲作りを冨田さんに一任されたのも、そういう想いからなのかなと思ったんですけど、「歌」に関してはこれまで以上に熱が入っているように感じました。

藤井:僕、これまでは自分の歌をあまり客観的に聴けなかったんですよ。もちろん、できあがった曲は大好きなんです。でも、なんだか自分の声が照れ臭くて。ですが、『Coffee Bar Cowboy』以降はすごくいい意味で他人事になった感じがありますね。自分自身を「素材」のうちのひとつと捉えられるようになってきたのか、だいぶ楽になりました。それはレコーディングやミックスによるところも大きくて、エンジニアは前作に引き続き兼重哲哉さんにお願いしています。兼重さんのおかげです。

―藤井さんのボーカルは以前から定評がありますし、今作でもより表現力が増したように感じました。

藤井:そんなことはないですよ。自分のことを「歌手」だとは思ってないです。僕の歌の活動は自分のボーカルがどうこうより、僕のことを応援してくださる方、テレビで気にかけてくださる方、イベントに来てくださる方たちに、少しでも「プププ!」って笑っていただくためだと思っているので。今回のビデオもそう。だから、「ボーカルはこんなことを意識しました」「あんなことを試してみました」みたいな、おこがましい主張は一切なくて。全てのディレクションを冨田さんに委ねています。

藤井隆

「こんなのができたんですが、楽しんでもらえてますかね……?」っていう、姿勢や態度は忘れないようにしたい。(藤井)

―本当に、どこまでもご自身を客観的に見ているんですね。

藤井:勝手が違うことでも「藤井にやらせてみよう」と思ってもらえるスタートは、吉本に所属しているからということを理解してます。自分の得意なことやできることの範囲は知ってますよ。これ、言葉がきついので見出しに使ってほしくないんですけど(笑)、僕のCDが何百万枚もヒットするわけないし、限られた人たちが求めてくださっているのは、やっぱり1stアルバム(2002年リリースの『ロミオ道行』。プロデュースは松本隆)とか過去の財産があるからなんです。

藤井隆

藤井:過去の先生方が作ってくださった楽曲に感謝しつつ、自分の飽き性を長所にしてちょっとでも新しい自分になれるよう、今自分がやりたいことを、腹を括ってやるしかないのかと。

もちろん「やりたいこと」と言っても、あまりにもめちゃくちゃだったら冨田さんも高村さんも止めてくれるでしょうし(笑)、そこは信頼しています。たとえば「(キメ顏で)僕は今、歌いたい気分だからバラード集、作りました」みたいなことを求められていないのは、自分が一番わかっています。

―(笑)。

藤井:やりたいことを、ただただ無責任にやるのとは違うと思います。「僕が面白いと思ったことを、キャッチできた人だけ楽しんでね?」なんて偉そうな気持ちは1ミリもないです。「こんなのができたんですが、いかがでしょう? 楽しんでもらえてますかね……?」っていう、姿勢や態度は忘れないようにしたい。

藤井:音楽に限らずテレビ番組なんかでもずっとそうやってきたつもりなのに、たまにそう受け取っていただけないときがあるようです。「マニアックですね」とか「コアだね」とか言っていただくとズッコケてしまうときがあります。どちらかというと、自分ではメジャー感に憧れて選んだことが「マイナーでマニアック」ならまだしも、ただただウケてないときがあるので自分の感覚のズレにがっかりするんです。

同期の中川家のような圧倒的な実力が自分にないことも早い段階で気づいていました。(藤井)

―藤井さんのその謙虚さというか、自己評価の低さ――失礼な言い方かもしれませんが劣等感みたいなものがあるのでしょうか?

藤井:たとえば公開収録に出演したとき、「タレント」と呼ばれる方ならお客さんを「わー!」って沸かせなければならない。でも、まず僕には無理。スタイルがいいわけでも、顔がいいわけでもないですからね。じゃあ、芸人としてマイク1本あれば、いつでも笑いがとれるのかといえば、それもできない。タレント、芸人、としての強みがないのは劣等感かもしれませんね。

藤井隆

藤井:デビュー時のマネージャーが厳しくて、吉本新喜劇以外の仕事のやり方を一緒に全力で模索してくれる一方で、髪型、言動、私生活の時間など諸々を管理されていました。自分の考えや意見がなかったんだと思います。芸人として自分が面白いと思うことを信じて発表する、いわゆる単独公演の経験もないままずっときました。僕の場合、単独公演がコンサートだったので、そういう点で昔はコンプレックスがありました。

―そうだったんですね。

藤井:僕は吉本新喜劇出身なので、いただいたセリフと役のなかで面白い人になれるかもしれませんが、「さっきあった出来事を、面白おかしく伝える」という才能はないんですよ。同期の中川家のような圧倒的な実力が自分にないことも早い段階で気づいていました。

いろんな仕事を経験させていただいて、ラッキーなことに関わってくださった先生方や、スタッフの方々が真剣に向き合ってくださってきたので、こだわりや守りたいこと、ルールもやはり自分のなかに多くて。「商品」として見たときの藤井隆の面倒くささ、売りにくさは、自分でも重々わかっているんですよね。マネージャー大変やろなと(笑)。

きっと藤井さんは、裏方的な仕事も本気で好きなんだと思いますよ。だから僕らも一緒にやれる。(高村)

―そんな藤井さんをそばで見ていて、高村さんはどう思いますか?

高村:もうとにかくこちらが恐縮するほど制作サイドにも気をつかっていただいて。いわゆる専業じゃない方がディレクター的な立場になった場合、おおまかなイメージだけで細かいことはスタッフにおまかせみたいなことが多いんですよ。

でも藤井さんは、今回は特に大阪にいらっしゃることが多かったので、「ブツ撮りに行けなくてすみません!」とか「本当は僕も編集に立ち会いたかったんだけど……」みたいに言ってくださる。きっと藤井さんは、裏方的な仕事も本気で好きなんだと思いますよ。だから僕らも一緒にやれる。たとえばギリギリで「ここ、直せませんか?」って言われても嫌な気がしないんです。「確かに!」と気づかされることも多いですし。

高村佳典

高村:逆に僕から藤井さんに、「もっと前に出ても嫌な感じはしないですよ?」っていうことを、今回は結構言っていて。あまりにも控えめというか、気にしすぎているように感じることがあって。

―「コンプレックスをバネにしている」というのとも違うけど、ご自身を客観的に見過ぎているがゆえの、「もうちょっとやっても大丈夫なのに!」っていうもどかしさがあるのかもしれないですね。

高村:そうなんです。そこを誰かが言わなくちゃいけないと思って、今回はあえて遠慮せずにいろいろお願いしました。かなりパーソナルなところに足を踏み入れることなので、「青山デニーズ事件」はまさに、起こるべくして起きたというか(笑)。

僕は単純に、今回は藤井さんが出ている映像を見たかったし、そっちのほうがお客さんにもより伝わるし、喜んでもらえるだろうなと思ったんですよ。もし藤井さんが本当に嫌ならやめましょう。そのラインを探りながら進めていく感じでした。

藤井:今回、自分が出ながら作る方法を、高村さんに通していただいてよかったと思います。その方が楽しんでいただけたようで嬉しいです。僕のやることを応援してくれる人たちが、たとえ少人数でも笑ってくださったら、すごく頑張れるんです。これからも、褒めてくださる方々に向かってベストを尽くしたいなって思います。

左から:藤井隆、高村佳典

リリース情報
藤井隆
『light showers』(CD)

2017年9月13日(水)発売
価格:3,000円(税込)
YRCN-95284

1. Going back to myself ~再生のリズム~
2. mode in the end
3. Dark Night
4. AIR LOVER
5. 守ってみたい
6. くちばしは黄色
7. 踊りたい
8. カサノバとエンジェル
9. ドライバー
10. プラスティック・スター

プロフィール
藤井隆
藤井隆 (ふじい たかし)

1972年3月10日生まれ、大阪府出身のお笑いタレント / 歌手 / 俳優。92年吉本新喜劇デビューし数多くのバラエティ番組に出演し人気を博す。2000年に「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年の紅白歌合戦に出場。近年では自身主宰の音楽レーベル「SLENDERIE RECORD」を設立し、11年ぶりとなるオリジナルアルバム『Coffee Bar Cowboy』や2015年にはベストアルバム『ザ・ベスト・オブ 藤井隆 AUDIO VISUAL』をリリースするなど音楽シーンでも活躍。俳優としてNHK大河ドラマ「真田丸」(佐助役)、TBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」に出演するなど様々なジャンルで才能を発揮する。

高村佳典 (たかむら よしのり)

1982年生まれ。アートディレクター / グラフィックデザイナー / 映像作家。京都造形芸術大学環境デザイン学科卒。家具デザイナー・藤田昌喜ともに「CRAFTIVE」としても活動を行う。MAGICALGANG、I HATE MONDAYSが所属するインディーズレーベル「Oystar Productions」も主宰する。



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