
アイナ・ジ・エンドの心の内を込めた『THE END』 亀田誠治と語る
アイナ・ジ・エンド『THE END』- インタビュー・テキスト
- 柴那典
- 撮影:永峰拓也 編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)
コロナ禍の不自由な環境で行なわれたアルバム制作。なかなか会えないからこそ、濃密なコミュニケーションが生まれた
―アレンジやバンドでのレコーディングはどうでしたか?
亀田:どうやったらリモートの状況でバンドサウンドを活かせるかというプロデューサーとしての危機感もあって、何年か前から自分の仲間たちと始めていたリモートでのレコーディング環境をフル動員しました。
スタジオに入ったのはストリングスを録ったときを含めて2回くらいですね。あとは基本的にリモートでやりとりをして作っていった。だから、スタジオに入って「今日はいいレコーディングだったね」って言って1日で作り終わるんじゃなくて、一曲一曲に時間がかかって、熟成されていて。なおかつ、アイナちゃんと会話ができるのは一期一会。そこで全部を感じ取らなきゃいけない。そういう「これっきり感」のような気持ちがずっと根底にありました。
―アイナさんは制作状況を振り返ってどんなことを感じましたか?
アイナ:本当だったらもうちょっとお会いして話をできてたんだと思うんですけれど。でも、リモートでしかお話できなかったからこそ、私も「今日このタイミングで亀田さんにこの話を聞こう」とか「この話は絶対に言おう」とか、そういう風に向き合ってました。そうやって人に会うのってあんまりなかったんですけれど、一緒にいる時間が大切に思えたし、濃密でした。逆によかったかなとか思います。
―これは聴いた側の印象ですが、アイナさんの曲は、どの曲にもすごく切実さがある気がするんです。自分の内側にある心情が曲になっている。そういう曲だからこそ、「このタイミングで伝えなきゃいけない」っていうコミュニケーションが影響して、サウンドの切実さにも繋がっている気がしました。
亀田:それは僕も実感しています。たとえば“金木犀”の間奏はベースソロを弾いてるんですけれど、僕自身もベーシストとしてのベストパフォーマンスが出てくるんですよ。コンピューターの前に座って1人で弾いてるにもかかわらず、アイナちゃんに引き出されるようなものがあって。そこが相乗効果になっているんだと思います。
ボーカルのレコーディングのときも、本当に歌に力がこもっていて、歌のアベレージも本当に高いんで、だいたい2時間ぐらいで1曲終わっちゃうんです。その間に、歌詞のことを話したり歌のことを話したり、「この1週間何があった」みたいな話をしたり。そういう密度が濃いんです。かと言って、お互い忙しいんだから1日に2曲録りましょうとか、1日でまとめてレコーディングしましょうということにはなれない。僕もアイナちゃんも本気だから、無理なんですよ。それをやると命が終わっちゃいそうなくらい、本気で向き合ってる時間でした。
アイナ:BiSHだと多くて1日3曲歌ったりするんですけど、6人いるので、自分の声が全部採用されるわけじゃないのをわかった上での歌録りなんです。全力ではあるけれど「ここはチッチが歌うから歌わなくていい」というところもあって、だからこそ3曲録れるんですけど。1人で歌うとなると、1曲歌い切るのでも精神的な疲労感があるので、これを3曲やるのは無理だなって思います。あと、亀田さんとレコーディングしてると、言ってくれることが多くて、メモがノートにびっしりになって。それもあって、1曲やるのがギリギリでした。このやり方は、本当にすごく良かったです。
亀田:アイナちゃんは、ちゃんと逆算して、レコーディング当日の何時に起きて声出しをしたり、曲によっては喉を開きすぎない方がいい場合もあるんですけれど、そういうことも自分で考えながら、しっかりコンディションを整えてくるんです。それくらいの覚悟を持って臨んでくれる。だから、楽しい一方で、良い意味でのピリッとした緊張感みたいなものがずっとあった感じがします。穏やかな中、空気は透明で、だからこそしっかりと透明な気持ちで臨まなきゃいけないみたいな。そういう気持ちはお互い保てたような気がします。
―先行配信された“虹”は非常にダークでヒリヒリとした感触が印象的な曲ですが、これはどういう風に作った曲なんでしょうか?
アイナ:これは自粛期間中に映像監督の山田健人さんに「もし東京ドームに立ちたいんだったらTHE YELLOW MONKEYのドキュメンタリーを見た方がいい」と言われて、見たんです。そうしたら「自分は何をやってるんだ!」って思って。東京ドームに立ちたいって言ってた自分がすごく情けないっていうか。スターしか立っちゃいけないところなんだっていうのを改めて実感して。何かしなきゃと思って作った曲でした。希望に満ち溢れた感じじゃなかったですね。すごく混沌とした気持ちが“虹”になりました。
亀田:これもボイスメモで届きました。アイナちゃんも「お経のような始まりですいません」ってメッセージが添えられていて。でも、すぐにサウンドスケープが思い浮かんで、トラックの方向性が見えました。デモは打ち込みで送ったんですけれど、歌入れの時に生音のバンドサウンドに差し替わったのをアイナちゃんが聴いた瞬間に「きゃーっ!」って喜んで。間奏に入るところでスクリームしてみようとか、楽器のみんなが炸裂してるから私も炸裂しますとか、いろんな歌い方のアイディアを出してくれて。ゴールで伸びた感じがありますね。僕も本当に大好きな曲です。
アイナ・ジ・エンド“虹”MV
―“金木犀”についてはどうでしょうか? これはだいぶ前にあった曲ということですが。
アイナ:これはBiSHに入って2週間くらいのときに作った曲でした。私は渡辺さんにも松隈(ケンタ、BiSHのサウンドプロデュースを手掛ける)さんにも「こいつはBiSHにいらない」みたいな感じで受かっちゃったので、当時はそんなに居場所を感じられなくて。今より子供だったし「私なんて」みたいに思って拗ねてたんです。そういう風にずっと泣いて暮らしていたころに作った曲で。秋になるくらい、金木犀が揺れる頃には渡辺さんとか松隈さんとかうまくいったらいいなって。最初のテーマはそんな感じでした。
その時にスキップしながら歌って元気を出そうって思って。スキップしながら作ったんで自然と3拍子になってたんですけど、それに気付かずに歌いきったら“金木犀”ができました。
アイナ・ジ・エンド“金木犀”MV
―“NaNa”に関してはどうでしょう?
アイナ:この曲は仮タイトルが“小松菜奈にラブリー”なんです。サビも最初は「♪小松菜奈にラブリー」って歌っていて。とにかく小松菜奈ちゃんが好きだっていう、それだけの歌なんです。もし亀田さんがアレンジしてくれてなかったら、本当に世に出せない、ただのオタクの叫びで(笑)。
亀田:これ、もう一つのアイナちゃんの最大の魅力なんですよ。たとえば「小松菜奈ちゃんのここが可愛い」とか、いろんな可愛いポイントを探すのがすごく上手い。それは人だけじゃなく、音楽にも、生き物やモノに対してもそう。心の闇みたいな部分を吐き出してるだけじゃなくて、キュートなもの、自分がいいと思ったものをちゃんと吸収した結果アイナ・ジ・エンドというアーティストになっている。
リリース情報
- アイナ・ジ・エンド
『THE END』初回生産限定盤(2CD+Blu-ray) -
2021年2月3日(水)発売
価格:11,000円(税込)
AVCD-96646/7/B[CD1]
1. 金木犀
2. 虹
3. NaNa
4. 粧し込んだ日にかぎって
5. ハロウ
6. きえないで
7. 日々
8. STEP by STEP
9. 静的情夜
10. 死にたい夜にかぎって
11. サボテンガール
12. スイカ[CD2]
1. 20-CRY- / アイナ・ジ・エンド [from 加藤ミリヤトリビュートアルバム『INSPIRE』]
2. 不便な可愛げ feat. アイナ・ジ・エンド / ジェニーハイ
3. 光の涯 feat. アイナ・ジ・エンド / SUGIZO
4. SING-A-LONG feat. アイナ・ジ・エンド / DISH//
5. 2 FACE / MY FIRST STORY
6. Bacteria / SEXFRiEND [from『hide TRIBUTE IMPULSE』]
7. 偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
8. パート・オブ・ユア・ワールド / アイナ・ジ・エンド [from『Thank You Disney』]
9. Break The Doors feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid
10. TO THE END feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid[Blu-ray]
・a-nation 2020
1. スパーク
2. 死にたい夜にかぎって
3. きえないで
・HINA-MATSURI 2020
1. SMACK baby SMACK
2. きえないで
・GREEN ROOM FESTIVAL'18
1. 偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
2. 光 [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
・Music Video
1. 金木犀
2. 虹
3. 死にたい夜にかぎって
4. きえないで
・スペシャルコンテンツ『アイナのすべて』
- アイナ・ジ・エンド
『THE END』Music盤(2CD) -
2021年2月3日(水)発売
価格:4,290円(税込)
AVCD-96648/9[CD1]
1. 金木犀
2. 虹
3. NaNa
4. 粧し込んだ日にかぎって
5. ハロウ
6. きえないで
7. 日々
8. STEP by STEP
9. 静的情夜
10. 死にたい夜にかぎって
11. サボテンガール
12. スイカ[CD2]
1. 20-CRY- / アイナ・ジ・エンド [from 加藤ミリヤトリビュートアルバム『INSPIRE』]
2. 不便な可愛げ feat. アイナ・ジ・エンド / ジェニーハイ
3. 光の涯 feat. アイナ・ジ・エンド / SUGIZO
4. SING-A-LONG feat. アイナ・ジ・エンド / DISH//
5. 2 FACE / MY FIRST STORY
6. Bacteria / SEXFRiEND [from『hide TRIBUTE IMPULSE』]
7. 偽りのシンパシー [Vocal:アイナ・ジ・エンド] / MONDO GROSSO
8. パート・オブ・ユア・ワールド / アイナ・ジ・エンド [from『Thank You Disney』]
9. Break The Doors feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid
10. TO THE END feat. アイナ・ジ・エンド / TeddyLoid

- アイナ・ジ・エンド
『THE END』CD盤(CD) -
2021年2月3日(水)発売
価格:3,300円(税込)
AVCD-966501. 金木犀
2. 虹
3. NaNa
4. 粧し込んだ日にかぎって
5. ハロウ
6. きえないで
7. 日々
8. STEP by STEP
9. 静的情夜
10. 死にたい夜にかぎって
11. サボテンガール
12. スイカ
プロフィール
- アイナ・ジ・エンド
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“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。天性のハスキーボイスとエモーショナルなパフォーマンス、表現力が高く評価されMONDO GROSSO、SUGIZO(LUNA SEA)、ジェニーハイ他、数々の外部アーティストとコラボや、企業TVCMソングを担当する等、業界内の評価も高い。2020年2月3日に、約1年に及ぶ制作活動から生まれた本人作詞作曲による全12曲を収録した初のソロアルバム「THE END」のリリースが決定。いよいよソロ活動を本格化。2月19日より初のソロツアーを名古屋、大阪、東京で開催。チケットは既に全公演即日完売。2021年、最も注目の表現者。
- 亀田誠治(かめだ せいじ)
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1964年生まれ。音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、エレファントカシマシ、大原櫻子、GLIM SPANKY、山本彩、石川さゆり、東京スカパラダイスオーケストラ、MISIAなど数多くのプロデュース、アレンジを手がける。2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。2007年第49回、2015年第57回の日本レコード大賞では編曲賞を受賞。2019年より自ら実行委員長を務める日比谷音楽祭を開催。同年、世界に挑む若手音楽家とアスリートや彼らを支え育成に努めるコーチ、その発展・改革に挑むリーダーに贈られる「第2回服部真二賞」を受賞。