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坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

坂口恭平が語る「死なないという勝ち方」。画狂老人・北斎に学ぶ

『HOKUSAI』
インタビュー
九龍ジョー
構成:中島晴矢 撮影:タイコウクニヨシ 編集:井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

生涯をとおして3万点以上の作品を残したとされる伝説の浮世絵師・葛飾北斎。平均寿命40歳といわれた江戸時代に90歳まで生き伸びたという「画狂老人」の存在は、米『LIFE』誌で「この1000年で偉大な業績を残した100人」に唯一の日本人として選ばれるなど、世界中にその名を轟かせている。しかし意外にも、北斎の人生に関する資料はあまり残されていないという。

そんななか、歴史的資料を徹底的に調べあげ、数少ない史実に独自の視点と解釈を加えることで「人間・北斎」を描きあげた映画が誕生した。ずばり『HOKUSAI』と名づけられた同作では、柳楽優弥と田中泯がダブル主演を務め、ほとんど語られることのなかった青年時代の北斎と、老年期の北斎をそれぞれ熱演。すでに日本をはじめ約30か国で、劇場、配信公開、テレビ放送が決まっているという意欲作だ。

今回はそんな『HOKUSAI』の公開にあわせ、建築家・作家・ミュージシャンなど多彩な顔を持ちながら、北斎と同じく風景画を描くことでも知られる表現者・坂口恭平にインタビューを実施。インタビュアーは伝統芸能などにも造詣が深く、坂口と旧知の仲であり、坂口の最新刊『躁鬱大学』の担当編集者でもある九龍ジョーが務めた。

「北斎が天才として描かれていないのが良かった」と話す坂口にその理由を訊いていくと、北斎の長生きの理由や、現世を生き抜くための実践的な方法が浮かびあがってきた。

坂口恭平(さかぐち きょうへい)<br>1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『幻年時代』(幻冬舎文庫/熊日出版文化賞受賞)、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『Pastel』(左右社)ほか著作多数。最新刊は『躁鬱大学』(新潮社)。
坂口恭平(さかぐち きょうへい)
1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『幻年時代』(幻冬舎文庫/熊日出版文化賞受賞)、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『Pastel』(左右社)ほか著作多数。最新刊は『躁鬱大学』(新潮社)。

天才ではなく地道な科学者タイプ。葛飾北斎の意外な人物像

坂口:北斎のライフヒストリーってじつはあまり知らなかったんです。だから映画を観て、「ああ、こんな感じだったのか」と。ちなみにこの映画、どのぐらい史実に忠実なんですかね。

九龍:北斎は青年期までの資料がほとんど残っていないので脚色もあるんだろうけど、世に出て以降は基本的に史実がベースになってますね。

坂口:北斎を演じる俳優が、若い頃は柳楽(優弥)くんで、晩年が(田中)泯さんでしょ。泯さん、最初はちょっとキャラが濃すぎなんじゃないかと思ったんだけど、80歳の北斎の自画像を見たら、ソックリだった(笑)。さすが、泯さん。

映画『HOKUSAI』ポスタービジュアル ©2020 HOKUSAI MOVIE
映画『HOKUSAI』ポスタービジュアル ©2020 HOKUSAI MOVIE(公式サイトで見る

九龍:北斎は当時としては長生きなんですよね。

坂口:しかも、北斎は代表作が完成したのも歳をとってからでしょう。有名な『北斎漫画』は50代の作品だし、『冨嶽三十六景』や『冨嶽百景』に至っては70代。僕は自分のことを、北斎と同じく晩成型の人間だと思っています。というか、そう思うと安心する(笑)。

九龍:まだまだこれからだぞと(笑)。

坂口:いまって、例えばミュージシャンなら、30歳でも若手と呼ばれたりするわけでしょ。経済状況とかもリンクしてくる話ですけど、そういう時代に、ある年齢にピークがくるような創作スタイルって難しいと思うんです。

それよりもずっと何かをプラクティス(練習)していったほうがいい。この映画でも、喜多川歌麿(玉木宏)や東洲斎写楽(浦上晟周)がセンスと直感で絵を描いて、若い頃から活躍しているのに対して、北斎は銅版画や遠近法をコツコツ研究したのちに自分のやり方を見つけていましたよね。ああいう部分に共感するし、北斎が「天才」として描かれていないのがよかったな。

柳楽優弥演じる若き日の葛飾北斎 ©2020 HOKUSAI MOVIE
柳楽優弥演じる若き日の葛飾北斎 ©2020 HOKUSAI MOVIE
玉木宏演じる喜多川歌麿 ©2020 HOKUSAI MOVIE
玉木宏演じる喜多川歌麿 ©2020 HOKUSAI MOVIE

九龍:坂口恭平も、わりと「天才」タイプに括られがちなところがありますからね。

坂口:そう。でも誤解なんだよね、毎日やってるだけなの、原稿も絵も(笑)。毎日やっているから、そこそこ上手くなる。北斎だって、毎日絵を描いていたわけでしょ。

九龍:しかも、これは江戸の浮世絵師全般にいえることでもあるけど、北斎の場合、版元とか戯作者とか、相手のある仕事をしていたことも大きいと思う。つねにビジネスや流行とのダイナミズムがあるというか。

坂口:そこもうまくやってるよね。北斎は貧しかったといわれているけど、おそらくライフマネーみたいなものはうまく運用してたんじゃないかな。映画を観て「現代的な人だな」と思った。

九龍:坂口恭平がかつて、近代小説のなかの空間をドローイングで再現する「立体読書」や、レーモン・ルーセルの『アフリカの印象』の挿絵を手掛けたように、北斎も挿絵を描いていましたね。

坂口:挿絵って、テキストを読み込まないとできないんですよ。仕事としてさらっと流すこともできるんだろうけど、少なくとも北斎は精読しているよね。絵の技法もつねに研究しているし、科学者っぽくもあるのかなとも思った。

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作品情報

『HOKUSAI』
『HOKUSAI』

2020年5月28日(金)から全国公開

監督:橋本一
脚本:河原れん
出演:
柳楽優弥
田中泯
玉木宏
瀧本美織
津田寛治
青木崇高
辻本祐樹
浦上晟周
芋生悠
河原れん
城桧吏
永山瑛太
阿部寛
ほか
配給:S・D・P

書籍情報

『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』
『躁鬱大学―気分の波で悩んでいるのは、あなただけではありません―』

2021年4月28日(水)発売
著者:坂口恭平
価格:1,760円(税込)
発行:新潮社

プロフィール

坂口恭平(さかぐち きょうへい)

1978年、熊本県生まれ。2001年、早稲田大学理工学部卒業。作家、建築家、絵描き、音楽家、「いのっちの電話」相談員など多彩な顔を持ち、いずれの活動も国内外で高く評価される。『TOKYO 0円ハウス 0円生活』(河出文庫)、『独立国家のつくりかた』(講談社現代新書)、『幻年時代』(幻冬舎文庫/熊日出版文化賞受賞)、『坂口恭平 躁鬱日記』(医学書院)、『自分の薬をつくる』(晶文社)、『Pastel』(左右社)ほか著作多数。

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