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Homecomings福富が語る原点 寂しさを手放さず、優しさで戦う

Homecomings福富が語る原点 寂しさを手放さず、優しさで戦う

Homecomings『MOVING DAYS』
インタビュー・テキスト
村尾泰郎
編集:佐伯享介(CINRA.NET編集部)

文学やソウルミュージックの影響も昇華した『MOVING DAYS』の音世界。サウンドの変化があっても「畳野さんの歌さえあれば大丈夫!」

―歌詞だけではなく曲全体に物語性があって、映像的ですよね。新作には“Pet Milk”というインストナンバーが入っていますが、ボーカル曲と自然な感じでつなげる構成は映画的な演出を感じさせたりもします。この曲名はアメリカの作家、スチュアート・ダイベックの『シカゴ育ち』に収録されている短編小説のタイトルからつけたそうですね。

Homecomings“Pet Milk”を聴く(Apple Musicはこちら

福富:スチュアート・ダイベックの小説は基本的に過去を振り返る目線というか、あのときこうこうでこういうことがあった、みたいな語り口で、「ペット・ミルク」って短編も過去を思い出している話なんですね。

ペットミルクというのはコーヒーに入れるミルクのことなんですけど、それをコーヒーに垂らして混ざっていく様を見てるシーンの描写が話の最初にあって、そのイメージが後半につながっていく。その美しい文体、そこで描かれる景色、「忘れないもの」というテーマも好きで、この短編集がきっかけで海外文学が好きになったんです。

スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』表紙(柴田元幸訳、白水社)
スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』表紙(柴田元幸訳、白水社 / サイトで見る

―最近はコルソン・ホワイトヘッドの『地下鉄道』とか『ニッケル・ボーイズ』(2019年刊行。日本語版は早川書房から2020年刊行)みたいな黒人文学も読まれているそうですね。今回のアルバムにはこれまで以上にソウルミュージックの要素が取り入れられていますが、そこに何か関連性はありますか?

福富:そこは偶然といえば偶然なんです。Black Lives Matterのニュースを追いかけているうちに黒人文学を読むようになったんですけど、その影響でソウルをやるようになったというふうに見えるのはちょっとなあ、と思ってて。文化盗用、と呼ぶと言い過ぎかもしれませんが、そういうことを意識せざるを得ない状況ではありましたね。

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』表紙(谷崎由依訳、ハヤカワepi文庫刊行)『ピュリツァー賞』『全米図書賞』『アーサー・C・クラーク賞』など受賞
コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』表紙(谷崎由依訳、ハヤカワepi文庫刊行)『ピュリツァー賞』『全米図書賞』『アーサー・C・クラーク賞』など受賞(サイトで見る

福富:ソウルをやりたいっていうのは、だいぶ前から話をしてたんです。キャロル・キングとかRex Orange Countyとか、メンバーが「いいな」と思う感じでソウルの要素を取り入れてみようって。もともとドラムの石田(成美)さんはソウルが好きで、以前からちょこちょこそういった音楽の影響を感じさせるフレーズを出してきたりしてたんですよね。

今回の作品にソウルの要素を入れることに関しては、最終的には「まあ、あんまり考えすぎるのもな」と思ったので、自分たちの気持ちに沿ってやることにしました。

―今回のアルバムはバンドサウンドにこだわらず、4人それぞれが自分の好きな要素を入れたようなバラエティー豊かなサウンドになってますね。打ち込みだけだったり、インストが入ってたり、ストリングスを添えたり。ソウル以外にもいろんなサウンドに挑戦しているのが印象的でした。

福富:それはコロナ禍での制作っていうのが大きくて。スタジオに一緒に入って「せーの!」で音を出すことできなかったんで、それぞれがデモをつくってリモートで曲を制作したんです。だから、メンバーそれぞれがその時々にいいと思った音を入れている。いろんな音楽が好きなメンバーなので、やってみたいことがたくさんあってそれを試してみてっていう感じですね。ソウルっぽい感じ、っていうのもあくまでそういうもののひとつっていう気持ちなので。ソウルミュージックのアルバムを作るには理解も技術も足りていないし、色々なものが混ざっているのがHomecomingsの良さでもあると思うので。

あと、4人でスタジオに入ったら、どうしても4人で完結する音になっちゃうんですよ。そこをリモート作業にしたことで、曲のイメージが膨らんだ。それに今回は「どんな音でも畳野(彩加)さんの歌さえあれば大丈夫!」と思えたのも大きいですね。

Homecomings
Homecomings

Homecomingsが今作で掲げた「優しさ」というキーワードに込めた想い。「社会からこぼれ落ちた人たちのお守りのような歌になってほしい」

―そういった変化がアルバムに風通しの良さを生み出していて、社会的なテーマを織り交ぜながらポップなアルバムになっています。

福富:ちゃんとポップスっていうかたちにしたかったんです。どういう風にも聴けるけど、そこに込めた気持ちをちゃんと説明できる。そういう表現をしたいなって。特に1曲目の“Here”はそういう想いが色濃く出ていると思います。社会からこぼれ落ちた人たちを救いたい、という曲にはあまりしたくなかった。そういう人たちにとってお守りのような曲になってほしいと思ったんです。結果的に救いになったりすることがあれば、それは本当に嬉しいことなんですけどね。

だから歌詞では絶妙な表現の仕方にして、はっきりしたメッセージソングにしないぶん、インタビューやウェブサイトでしっかり曲の内容を説明しようと。今回のアルバムはメジャーデビューアルバムということでいろんな人の耳に入ると思うので、ちゃんと責任を持って説明しないといけないと思っていました。

『MOVING DAYS』1曲目を飾る“Here”のPV。監督は『大豆田とわ子と三人の元夫』のエンディング映像も手掛けたYudai Maruyama。自転車に乗るシーンは『最高に素晴らしいこと』や『ハーフ・オブ・イット』にも登場する。

―そういうメッセージ性を意識するようになったのは、『WHALE LIVING』から日本語の歌詞になったことと関係がありますか?

福富:あります。日本語の歌詞にした理由の一つは、自分たちには歌いたこと、伝えたいことがあったからで、『WHALE LIVING』の頃から、いろんな問題を歌にしていきたいと思うようになったんです。

英語詞から日本語詞への転機となった3rdアルバム『WHALE LIVING』収録曲(関連記事:Homecomingsインタビュー 寂しさに寄り添い、日々に祈るように

―『最高に素晴らしいこと』や『ハーフ・オブ・イット』の主人公たちは、文学や音楽をお守りのように大切にしています。アートはそういう風に心の拠り所になれるもので、人はそこから勇気や安らぎを得ることができる。Homecomingsの音楽が与えてくれるのは「優しさ」だと思います。収録曲“Good Word For The Weekend”には<優しさをはなさないで>、“Moving Day part2”には<やさしいだけでうれしかったよ>という一節もありますが、Homecomingsが歌う「優しさ」とはどういうものですか?

福富:差別やジェンダーの問題だけじゃなく、新自由主義的な、知ってる人だけ得をするみたいなこととか、勝ち組、負け組みたいな考え方とかそういうものにちゃんと「ノー」って言いたいんです。これまで力強く「ノー」って言うバンドに影響を受けたり憧れたりしてきたので。でも「ノー」って言うのにもいろんなやり方があっていいんじゃないかと思っていて。

『ハーフ・オブ・イット』は何かに対して「ノー」って突きつけてるわけじゃないけど、作品自体が社会に対して意思を伝えてると思うし、そういうやり方で何かやりたいと思っていて、それが優しさについて歌うことなんです。結局、いま問題になっていることって、全部優しさが足りないから起こってることだと思うんですよね。

―たしかにおっしゃるとおりですね。

福富:みんな優しくあろうとはしていると思うんですよ。ただ、例えば「人を傷つけない笑い」みたいなワードが出てきたとき、「そんなのは窮屈だ」っていう声も大きかった。誰かが社会問題に触れると意識高い系とか言われて笑われたりもする。

これまで無意識のうちに弱者を踏みつけてきて、それをきちんと省みることができるような社会にまだなっていないのに、「窮屈だ」と言っちゃう風潮がすごい嫌なんです。だから自分たちなりのやり方で「ノー」って言えるアルバムをメジャーというフィールドで出したいと思って、去年1年考えて、そこでキーワードとして出てきたのが「優しさ」だったんです。

―「優しさ」というキーワードが出てきたのは、福富さんがこれまで触れてきた小説や映画、グラフィックノベルから感じていたことだったんでしょうか。

福富:そうですね。自分の本棚の延長線上にあることというか。ウルトラマンより怪獣が好きやった感じ。怪獣が倒される姿を見て切なくなっていたときの感じともつながってる気はします。でも、上から目線で「可哀想」って言ってるのではなくて。共感というか、不思議な寂しさみたいな感覚がずっとあるんです。

―「寂しさ」っていうのもバンドのキーワードとしてありますね。

福富:寂しさはずっと感じてきたものなんです。ちっちゃい頃から寂しかったし、いまも寂しい。別に友達がいないわけではなくて、寂しさは常に自分のなかにある感覚なんですよね。

アルバム収録曲“Moving Day Pt.2”のオフィシャルショートムービー。サヌキナオヤの描き下ろし漫画を原作に、仲原達彦(カクバリズム)が制作した。Homecomingsは劇伴も担当

―もしかしたら、寂しさと優しさはセットになっているのかもしれないですね。

福富:そのバランスがおかしくなると人を傷つけたり、自分を傷つけたりしてしまったりするのかも。

―たとえば『最高に素晴らしいこと』で心に傷を負った2人の交流を見ていると、彼らの寂しさと優しさが触れ合っているように感じました。

福富:そうですね。ああいうバランスがずっと保てればいいのになって思いますね。そしてHomecomingsは、そういう寂しさと優しさの触れ合いやバランスをちゃんと歌ってるバンドでありたい。誰かを救いたいっていう気持ちが強いわけじゃないけど、それがもし誰かの救いになるとしたら嬉しいですね。

―Homecomingsの歌を通じて、小説や映画、コミックなど、いろんな世界を知ることもできる。新しい世界を知ることでリスナーは自分の居場所をさらに広げることができるかもしれない。それも「お守り」の大切な役割だと思います。

福富:僕は銀杏BOYZの歌を聴いてJ.D.サリンジャーのことを知ったし、『ロスト・イン・トランスレーション』を見てThe Jesus and Mary Chainを聴くようになった。Homecomingsもそういう存在でありたいと思っています。いろんな文化につながるハブでありたい、というのはバンドの大きなテーマで、最近特にそう思っているんですよね。

『ロスト・イン・トランスレーション』予告編。2003年公開、監督はソフィア・コッポラ

『ロスト・イン・トランスレーション』劇中に使用されていたThe Jesus And Mary Chainの代表曲

Homecomings『MOVING DAYS』を聴く(Apple Musicはこちら

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リリース情報

Homecomings『Moving Days』初回限定盤
Homecomings
『Moving Days』初回限定盤(CD+Blu-ray)

2021年5月12日(水)発売
価格:4,950円(税込)
PCCA-06031

[CD]
1. Here
2. Cakes(Album Version)
3. Pedal
4. Good Word For The Weekend
5. Moving Day Pt. 2
6. Continue
7. Summer Reading
8. Tiny Kitchen
9. Pet Milk
10. Blanket Town Blues
11. Herge

[Blu-ray]
『“BLANKET TOWN BLUES” December 25, 2020』
1. Corridor(to blue hour)
2. Blue Hour
3. Hull Down
4. Lighthouse Melodies
5. Smoke
6. ANOTHER NEW YEAR
7. LEMON SOUNDS
8. HURTS
9. Special Today
10. Moving Day Part1
11. Continue
12. PLAY YARD SYMPHONY
13. Cakes
14. Songbirds
15. Whale Living
16. I Want You Back

Homecomings『Moving Days』
Homecomings
『Moving Days』通常盤(CD)

2021年5月12日(水)発売
価格:2,970円(税込)
PCCA-06041

1. Here
2. Cakes(Album Version)
3. Pedal
4. Good Word For The Weekend
5. Moving Day Pt. 2
6. Continue
7. Summer Reading
8. Tiny Kitchen
9. Pet Milk
10. Blanket Town Blues
11. Herge

イベント情報

Homecomings
『Tour Moving Days』

2021年7月17日(土)
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2021年7月18日(日)
会場:大阪府 梅田CLUB QUATTRO

2021年7月23日(金・祝)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

料金:各公演 前売4,500円(ドリンク別)
※4歳以上要チケット

プロフィール

Homecomings
Homecomings(ほーむかみんぐす)

畳野彩加(Vo,Gt)、福田穂那美(Ba,Cho)、石田成美(Dr,Cho)、福富優樹(Gt)からなる4ピースバンド。これまで3枚のアルバムをリリースし、台湾やイギリスなどでの海外ツアーや、4度にわたる「FUJI ROCK FESTIVAL」への出演など、2012年の結成から精力的に活動を展開。心地よいメロディに、日常のなかにある細やかな描写を紡ぐような歌詞が色を添え、耽美でどこか懐かしさを感じさせる歌声が聞く人の耳に寄り添う音楽で支持を広げている。2017年からは、イラストレーター・サヌキナオヤ氏と共同で、映画と音楽のイベント「New Neighbors」をスタート。彼女たちがセレクトした映画の上映と映画にちなんだアコースティックライブの二本立てイベントを主催。2019年4月公開の映画『リズと青い鳥』の主題歌や、同年4月公開された、映画『愛がなんだ』の主題歌を担当。Vo畳野は、くるりやASIAN KUNG-FU GENERATIONの楽曲にゲストボーカルで参加するなど、活動の幅を広げている。IRORI Recordsより2021年春メジャーデビュー。

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