『怪物』是枝裕和監督、3年にわたる脚本・坂元裕二との協業を語る

6月2日に公開された是枝裕和監督最新作『怪物』。脚本・坂元裕二との共同作業や、昨年亡くなった坂本龍一とのコラボレーションなど注目を集め、5月に開催されたカンヌ国際映画祭ではクィアパルム賞と脚本賞を受賞した。今回は『怪物』の公開に際して、カンヌに滞在していた是枝監督にインタビューする機会を得た。脚本はどのような過程でつくりあげたのか、監督に聞いた。

脚本ができるまで3年。協業のなかで是枝監督が感じた坂元裕二脚本の面白さとは

ー今回坂元裕二さんと念願叶っての初タッグです。2018年にはじめて脚本を受け取ったとうかがってますが、はじめて脚本を読んだときに感じたことや考えたことを、まずはおうかがいさせてください。

是枝:2018年の12月にプロデューサーの川村元気さんから、坂元さんと映画の企画の開発をしていてプロットが完成したので見てほしい、と連絡がありました。坂元さんが組みたい監督としてぼくの名前をあげてくださったみたいなんです。もうずっと坂元さんと一緒に何かやりたい、自分で脚本を書かないんだったら坂元さんにお願いしたいと思っていたので、直接ラブコールを送っていただいた時点で、読む前にもうやることには決めていました。

渡された時点では、まだ脚本ではなくてプロットだったんですが、その段階から、大枠では現在と同じ構成になっていました。

そして、作品のなかで展開されていく子どもたちの世界はとても繊細な部分があったので、これはやるのであれば慎重に向き合わなきゃいけないと思いました。まず勉強しよう、と。

ーなるほど。今回、約3年かけて決定稿をつくっていかれたと思うんですが、どのようにブラッシュアップをしていったのでしょうか?

是枝:基本的に、実際に手を動かしているのは坂元さんなんですよ。坂元さんの良さを受け、そこは損なわないように、でも尺は短くしなければいけないっていう作業ですよね。最初にいただいたものは3時間ぐらいあったので、3分の1は削らないといけなかった。そこからずいぶん、意見交換して、削って痩せちゃったものをまた戻してっていうことを、3年間ずっとやっていたんですね。

キャスティングが決まると、坂元さんは一気に筆が乗るので、たとえば、保利先生が永山瑛太さんに決まったあと、すぐに「書けます」とおっしゃってくださって。あがってきた脚本では、もう完全にいまの保利先生のかたちになっていました。なるほどこうやって固めてくんだなっていうことの繰り返しで、それがすごく面白かった。

校長先生が田中裕子さんに決まったあとも、物語上の役割が大きくなったり、3部の冒頭の面会室のシーンが追加されたりしました。役者の声で、イメージしながら書かれたセリフとかシーンが、もう本当に隙がなくてですね。素晴らしい精度で原稿が上がってくるので感動していました。

改稿を重ねるなかでも、変わらなかった子どもたちのラスト

ー脚本をつくる作業のなかではどういったディスカッションをされましたか?

是枝:ぼくも川村元気さんも、結構突っ込んだディテールの話をずっとしていました。前の方が良かったとか、この子の気持ち的には2つ前の稿のほうがいいのではないかとか。そういったことを、大胆にも提案させていただいて、坂元さんが一旦持ち帰られてという流れが多かったですね。そういう意味で言うと、ちゃんと真剣勝負ができたなと思います。

ー脚本をつくっていくなかでシーンやセリフが足されたり削除されたりということがあったと思うのですが、そのなかでも変わらなかった部分というのはあるのでしょうか?

是枝:坂元さんはこれは変えないって決めて書いてるわけではないですね。だから書くたびに、内容がどんどん変わっていきました。結末もこうしようって話し合ってるわけじゃなかったので、前半が変わると着地が変わっちゃうっていうことの繰り返しでした。

ただ、1点だけ変わらなかったのは、湊と依里のふたりにとっては希望のある最後にしよう、というところです。結果的に、この作品に関わってくださったみんなが納得するかたちになったと思います。

作品情報
『怪物』

監督:是枝裕和
脚本:坂元裕二
音楽:坂本龍一
出演:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太
プロフィール
是枝裕和 (これえだ ひろかず)

1962年6月6日、東京生まれ。大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出を担当。2014年に独立し、制作者集団「分福」を立ち上げる。1995年、『幻の光』で映画監督デビュー。『誰も知らない』(2004年)、『歩いても 歩いても』(08)、『そして父になる』(13)、『海街diary』(15)などで、国内外の主要な映画賞を受賞。2018年、『万引き家族』が第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。著書に『映画を撮りながら考えたこと』(ミシマ社)、『歩くような速さで』(ポプラ社)、『万引き家族』(宝島社)、『映画の生まれる場所で』(文春文庫)など。



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