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変わり者と呼ばれた異端の作曲家、エリック・サティを知る

変わり者と呼ばれた異端の作曲家、エリック・サティを知る

野路千晶
撮影:相良博昭
2015/07/23
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どこか物憂げ美しく、つかみどころのない旋律。テレビや映画、街中で、エリック・サティの音楽を耳にしたことのない人は、いないといっても過言ではないのではないでしょうか。クラシック音楽の世界からは「異端児」とされ、一方で「現代音楽のルーツの1つ」と称されるエリック・サティ。1866年フランスに生まれ、59才でその生涯を閉じるまでに、後世へまで影響力を持つ数多くの音楽作品を残しました。

そして、そんなサティ自身を、サティと相互に影響を与えあった同時代の芸術家との関係性から紐解こうとする展覧会が、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催中の『エリック・サティとその時代展』。今回は、著述家、ディレクターとして活躍、爆音でクラシック音楽を聴くイベント『爆クラ』を主催するなど、音楽全般にも深い造詣をもつ湯山玲子さんと展覧会を体験。音楽のみならず現代アート、さらには現代の日本社会が抱える問題まで、さまざまな視点から謎多き音楽家サティの深層に迫ります。

西洋音楽300年の伝統を跳躍させた異端の作曲家

「パリ音楽院で最も怠惰な生徒」。これが「音楽界の異端児」と呼ばれたエリック・サティの学生時代の評価でした。優等生とは程遠い生活を送っていたサティは、パリ音楽院を中退し、何を思ったのか軍隊へ志願入隊します。しかしその軍隊も1年で除隊となったサティ。1887年、22才で足を踏み入れたのが、当時パリの中でも画家や詩人、ダンサーなどの若い芸術家たちが集い、自由な雰囲気をたたえていた街・モンマルトルでした。

ジュール・グリュン『「外国人のためのモンマルトル案内」のポスター』 1900年 紙、リトグラフ モンマルトル美術館 Musée de Montmartre, Collection Société d’Histoire et d’Archéologie“Le Vieux Montmartre”
ジュール・グリュン『「外国人のためのモンマルトル案内」のポスター』 1900年 紙、リトグラフ モンマルトル美術館 Musée de Montmartre, Collection Société d’Histoire et d’Archéologie“Le Vieux Montmartre”

『エリック・サティとその時代展』展示風景
『エリック・サティとその時代展』展示風景

今展覧会では、モンマルトル時代のサティも交流していたと思われる、歓楽街のダンサーや舞踏会の様子を生き生きと描いたアーティストたちの作品展示から始まります。サティは、当時人気を博したキャバレー「シャ・ノワール」で影絵芝居のピアノ伴奏者として働き、その一方で作曲活動も並行。展示室では、当時のサティが手がけた代表曲の1つ“3つのジムノペディ(第1~3番)”を聴くことができます。

ここで湯山さんに質問。当時のクラシック音楽の世界では異端とされ、今では「現代音楽のルーツの1つ」と呼ばれるサティ。しかし、誰もが1度は耳にしたことがある“3つのジムノペディ(第1~3番)”や“JE TE VEUX(邦題:あなたが欲しい)”を聴いていても、とてもキャッチーな旋律で、いわゆる難解な「現代音楽」にはまったく聴こえません。どうして彼は「現代音楽のルーツ」と呼ばれているのでしょうか?

湯山:サティは、17世紀頃から300年近く続いていた西洋音楽の伝統「調性音楽(長調や短調など機能和声に基づいた音楽)」、いわゆる「ドレミファソラシド」のルールを壊した張本人と言われているんです。モーツァルトもベートーヴェンもワーグナーも「調性音楽」という枠の中で作曲していたけれど、サティはそれをぶっちぎって、グレゴリオ聖歌(9世紀頃に発祥したローマ・カトリックの宗教音楽)で使われていた音階「教会旋法」を、クラシック音楽に初めて持ち込み、「無調」といわれる音楽の先駆けになりました。そして、ドビュッシーやラヴェルが続き、シェーンベルクが「十二音技法」という無調音楽の作曲技法を確立し、そこから現代音楽が花開いていった。さらにそれはジャズや今のポッブスにもつながっている。つまり伝統的なクラシック音楽と今の音楽をつないでいるところにサティがいるんです。

Bunkamuraザ・ミュージアム『エリック・サティとその時代展』ポスター
Bunkamuraザ・ミュージアム『エリック・サティとその時代展』ポスター

作曲家・湯山昭を父に持つ湯山玲子さんは、自身の音楽的素養の源流にはサティがあったと言います。

湯山:父は“お菓子の世界”など、子どものためのピアノ曲を多く作曲しており、ジャズ的なもの、自由自在な転調などを子ども向けの曲にガンガン取り入れていました。だから家ではいつもサティ的な旋律が響いていたんです。あと、父と同世代の作曲家、宇野誠一郎さん、冨田勲さん、武満徹さんが作っていたCMや映画音楽も完全に「そっち系」。だから、サティが普通で、逆にシューベルトでびっくりするみたいな逆転現象があったと思う(笑)。

日本においてサティが一躍人気となったのは、人々の指向が消費に向かい、ライフスタイルが一気に多様化したバブル前夜の1980年代初期。音楽的には、パンク / ニューウェーブの影響があった時代。当時は、テレビのCMや劇中音楽、映画や舞台などでもさかんにサティの音楽が使用されたほか、意外な場所でも人気を博していたそうです。

湯山:1980年代、日本のニューウェーブシーンに、オペラの歌唱を取り入れ、イタリア歌曲集などの曲を現代的に蘇らせた「ショコラータ」っていうバンドがいたんですよ。もちろん「ピチカートファイヴ」も人気で、「古くて新しい音楽」というような、クラブ&ラウンジシーンにつながる音楽が世界で同時多発的に出てきた。そのムーブメントの、言わば副読本みたいな位置づけにサティがありました。特に人気だったのは“3つのジムノペディ”と“JE TE VEUX”。カフェや尖ったクラブでよく流れていましたね。

湯山玲子
湯山玲子

エリック・サティ『3つのジムノペディ第2番』
エリック・サティ『3つのジムノペディ第2番』

19世紀末のモンマルトルで、芸術家たちが交流するサロン的な役割を果たしていたキャバレー「シャ・ノワール」。そんなパリのシーンと日本の1980年代クラブカルチャーには、いろんな共通点が見えるようです。

湯山:当時のモンマルトルのキャバレーやカフェの雰囲気は、日本では完全に1980年代の夜遊びカルチャーにもあったと思う。原宿の「ピテカントロプス・エレクトス」、新宿の「ツバキハウス」。小さいクラブでは、レゲエ専門の「69」、渋谷にあったニューウェーブの本拠地「NYLON100%」、カフェバーでは「レッドシューズ」などなど。YMOのメンバーや立花ハジメさん、岡崎京子さんたちが遊びに来ていて、音楽、アート、ファッション雑誌や広告メディア系の人々、そして、そのジャンルに憧れる若者たちが入り乱れていましたからね。ジャンルの違う人たちが1つの場に集まって、化学変化が起こるというリアルは、まさにサティがいた頃のパリに近かったんですよ。

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イベント情報

『エリック・サティとその時代展』

東京会場
2015年7月8日(水)~8月30日(日)
会場:東京都 渋谷 Bunkamura ザ・ミュージアム
時間:10:00~19:00(金、土曜は21:00まで、入館は閉館の30分前まで)
休館日:会期中無休
料金:一般1,400円 大・高校生1,000円 中・小学生700円

静岡会場
2015年9月12日(土)~11月1日(日)
会場:静岡県 浜松市美術館

イベント情報

『湯山玲子の生誕祭 夏た! デスコだ!! ゴーゴーまつり』

2015年8月9日(日)15:00~21:00
会場:東京都 外苑前 ル・バロン・ド パリ
料金:3,900円
※ドレスコードは「夏帽子目深にけものめく黒眼(柴田白葉女)」

プロフィール

湯山玲子(ゆやま れいこ)

1960年生まれ、東京都出身。著述家。文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多く、全世代の女性誌やネットマガジンにコラムを連載、寄稿している。著作は『四十路越え!』『ビッチの触り方』『快楽上等 3.11以降を生きる』(上野千鶴子との対談本)『文化系女子の生き方 ポスト恋愛時宣言』『男をこじらせる前に 男がリアルにツラい時代の処方箋』等々。クラシック音楽を爆音で聴くイベント『爆クラ』と美人寿司主宰。
湯山玲子公式サイト

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