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二階堂ふみ×最果タヒ「わからない」を肯定する二人の言葉談義

二階堂ふみ×最果タヒ「わからない」を肯定する二人の言葉談義

『第33回現代詩花椿賞』
インタビュー・テキスト
武田砂鉄
撮影:永峰拓也

「愛」って言葉を表面的に使い続けると、その「愛」が人それぞれ違うってことを忘れてしまう。(最果)

―あらゆる言葉には跳躍力がある一方で、「この言葉で感動してくれ」とか、「怖い気分になってくれ」とか、人の感情を搾り取ってしまう機能も持っていますね。

二階堂:だからこそ言葉で、相手に手を差し伸べないようにしています。昨年の春に、自分が高校生の頃から演じてみたかった室生犀星の小説『蜜のあわれ』の映画を撮影したんですが、石井岳龍監督と話した時、監督は「僕たちの時代は、わからないことが面白かったんだ」と言っていた。見ている人が持っている枠の中にはめ込もうとする限り、どんなに力を持ったプロフェッショナルが集っても面白くならないんです。想像すら超えたものができたときに、人は初めて「ヤバい」って思ってくれるから。

二階堂ふみ

最果:想像の範囲内で生きていくのはつまらないですよね。みんな、本質的には色々な感情を持っている。それなのに、相手にわかるように言葉で説明するときに、とにかく単純化してしまいがちです。その都度、自分の感情を削ぎ落として、よくある話として、ポンって出してしまう。わかる話ばかり受け取っていると、概念しか残らないんですよ。例えば「愛」って言葉を表面的に使い続けると、その「愛」が人それぞれ違うってことを忘れてしまう。自分の知っている概念を話すだけなら、いっそ話す意味なんてないじゃないですか。学生時代、そういう風潮をつまんないなぁと思っていたとき、音楽に触れて、すべて開けた感じがした。「ヤバい、全然わかんない」という感覚が一番強いと知ることができたのは、幸せだったと思いますね。それで言うと、詩というのは、「わからない」ことが許されるジャンルなんです。だから何にでも馴染むし、どこにあってもあっておかしくない。

―そこにある理由が問われない、ということでしょうか。

最果:はい。例えば、道路に「死んで」と書いてあったらただ怖いだけですが、詩の中に「死んで」とあったら怖いだけではない。詩というものは「わからない」ことを肯定的に受け止められる場所で、だからこそ、そこで使われる言葉すべてに揺らぎを与えると思っています。読み手によって解釈が変わることが前提としてあるので、言葉一つひとつが自由なんです。

最果タヒ

二階堂:言葉と芸術の問題って、とても密接しているのではないかと感じます。芸術から受け止めたことが自分の感情の一部になっている人って、言葉の選択肢が広くて、豊かな印象があるんですよね。私は日本語が大好きだから、古くからある日本語とか、ものすごく粋な言葉とかを大事にしたいという思いがそもそもあるんですけど。

慎ましさと大胆さの共存って、日本語だけでも英語だけでもできないから、両方使えたらいいのになって。(二階堂)

―改めてそう感じるようになったきっかけがあったのですか?

二階堂:ここ最近、頻繁に通っているバーがあって、そこにいるのはほとんど外国人なんです。使われている言語は当然英語で、彼らは自分の意思を伝えるときに必ず「because」を使う。これってとても英語的な表現ですよね。何を表明するにも「なぜならば」と理由を述べる。でも、日本の古典表現を読むと、そういう言葉ってあまり使われていなくて、むしろ、心情や情景が多いですよね。最近、日本語が英語化してきているのかな、と感じていますが、どう思いますか?

最果:実は私、英語が嫌いなんです。余裕がない感じがするし、意見を伝えなければ話が進まないのが苦手で。例えば清少納言の『枕草子』にある「春はあけぼの」って、心情や情景を慎ましく表現しているように見えて、実はとっても強いですよね。冒頭から「春は明け方が良い」と言い切っているけど、強引に共感を求めているわけじゃなく、私はこうです、ってただ言う感じ。「どうですか?」って意見を求める気配もないから、「イエス」も「ノー」も答えられないですよね(笑)。一方で、SNSの「いいね!」などは「わかる」か「わからない」の二択を迫られる感じがするところが、英語化しているなと思います。学生の頃、一体何を喋っているのかわからない友達がいて、なぜか仲が良かったんですけど、社会に出てそういう言葉を覚えるとすっかり変わっちゃう。それはそれで面白いんですが。

二階堂:私は英語を喋るようになってから言葉の可能性が広がりました。英語の良さはシンプルなところで、ときめいた瞬間にその良さを正確に伝えられる。でも、英語を喋れるからといって英語人になる必要はないですよね。以前、英文法を教えてもらった先生に、「英語を喋れるようになると、日本語も鋭くなって嫌われるわよ」と言われたんです。でもそれは、人それぞれだと思う。なぜなら私の母国語は日本語で、日本人という概念を持っているから。慎ましさと大胆さの共存って、日本語だけでもできないし、英語だけでもできないから、両方使えたらいいのになって思いますね。

二階堂ふみ

―英語の「私」は「I」しかないけれど、日本語では、「私」「わたし」「ワタシ」「僕」「ぼく」「ボク」など、選択肢がいくらでもありますね。そのことは、詩の可能性にも繋がりますか?

最果:漢字って、その形状の成り立ちからして「伝えるぞ」という強い意思を感じるじゃないですか。一方で、ひらがなって、文字自体に主張がなく、部品みたいな感じがする。「これって『あ』っぽくない?」という感覚だけで「あ」という文字の形ができていそうな。

二階堂:そうですね(笑)。すごく納得がいきます。「ふ」って、いかにも「ふ」って感じがする。

―ひらがなはそれぞれに質感がありますね。「『ぬ』はやっぱり、こういう丸い感じだろ」みたいに、ワイワイガヤガヤ話し合って決めた感じすらします。

最果:たぶん私、英語の国に生まれていたら、詩は書いてなかったと思う。同じことを書くにしても、日本語だと簡単に揺らぐじゃないですか。その揺らぎが面白いんです。書く内容は自分の話ではないので、伝えたい欲求なんてないのですが、揺らぎながら曖昧に言葉を選んで肯定していく作業が面白いんです。

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書籍情報

『死んでしまう系のぼくらに』
『死んでしまう系のぼくらに』

2014年8月27日(水)発売
著者:最果タヒ
価格:1,296円(税込)
発行:リトルモア

『花椿』12月号
『花椿』12月号

2015年11月5日(木)から配布

『near, far 二階堂ふみ写真集』
『near, far 二階堂ふみ写真集』

2015年12月11日(金)発売
著者:二階堂ふみ
撮影:チャド・ムーア
価格:2,160円(税込)
発行:スペースシャワーネットワーク

プロフィール

二階堂ふみ(にかいどう ふみ)

1994年9月21日生まれ、沖縄県出身。12歳のとき『沖縄美少女図鑑』に掲載された写真がきっかけとなりスカウトされる。2009年『ガマの油』でヒロイン役に抜擢されスクリーンデビュー。2011年『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』にて主演を果たす。2012年公開の『ヒミズ』で『ヴェネチア国際映画祭 マルチェロマストロヤンニ賞(最優秀新人賞)』を受賞。2016年に主演映画『蜜のあわれ』『オオカミ少女と黒王子』の公開を控えている。

最果タヒ(さいはて たひ)

詩人・小説家。1986年、神戸市生まれ。『第44回現代詩手帖賞』『第13回中原中也賞』受賞。詩集に『グッドモーニング』(思潮社)、『空が分裂する』(新潮社)。『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)で『第33回現代詩花椿賞』受賞。小説に『星か獣になる季節』(筑摩書房)、『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』(講談社)がある。

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