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オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之、後藤美波(CINRA.NET編集部)

本展キュレーター4人による展覧会づくりのプロセスを映像作品化した奥村。4人を一つの人格のように統合

―そういった状況を踏まえて、奥村さんは新作のための準備を始めたわけですね。事前に作品映像を見せてもらいましたが、とても奥村さんらしい、キュレーターに対してちょっといじわるな内容だと思いました(笑)。

奥村:オンラインで作品を見せるってけっこう難しいですよね。パソコンで閲覧していると、5分ぐらいしたら「メール見ようかな」とか「YouTube見ようかな」っていう誘惑が頭をもたげてくる。

奥村雄樹(おくむら ゆうき)<br>1978年、青森県生まれ。現在、ブリュッセルとマーストリヒトを拠点に制作活動を行う。奥村は、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、キュレーション、翻訳など多岐にわたる実践に取り組んできた。 Photo:Yuki Naito
奥村雄樹(おくむら ゆうき)
1978年、青森県生まれ。現在、ブリュッセルとマーストリヒトを拠点に制作活動を行う。奥村は、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、キュレーション、翻訳など多岐にわたる実践に取り組んできた。 Photo:Yuki Naito
奥村雄樹の出品作『孤高のキュレーター』 ©Yuki Okumura
奥村雄樹の出品作『孤高のキュレーター』 ©Yuki Okumura(展覧会サイトはこちら

奥村:美術館みたいに没入して鑑賞できる環境とは言い難いですから。それを逆に利用して、それこそCINRA.NETみたいなウェブ記事のフォーマットで複合的な作品に取り組もうと最初は考えたんですが、僕のなかでうまく歯車が噛み合わなかった。

そこで、オンライン展という枠組みとは別のところにフォーカスを移しました。むしろキュレーターが4人いて、一つの展覧会をキュレートするという構造に面白さを感じて、展覧会の英語タイトルが決定されるまでのプロセスを映像作品に変換することにしました。

―作品、奇妙な構成ですよね。4人のキュレーターが1人の人格であるかのように再統合されていて、それをまた別の人の声が物語り直すという。ナレーションはライターのアンドリュー・マークルさんですね。

奥村:もともと僕はインディビジュアリティー(個別性、個人性)に興味があるんです。個人という枠組みって、基本的に肉体の個別性で分けられてると思うんですけど、それを他の基準で分け直せないだろうか、とか。そのために通訳や翻訳の手法を手がかりにしてきました。

今回であれば、4人のキュレーターの言葉を1人の通訳者にすべて訳してもらうことで、複数人による議論だったものを、一つの人格が脳内で自問自答してるように置き換えてみようと思いました。

左上から時計回りに:木村絵理子、桝田倫広、野村しのぶ、奥村雄樹
左上から時計回りに:木村絵理子、桝田倫広、野村しのぶ、奥村雄樹

「冒頭に、ボートを漕いでいるシーンがあるじゃないですか。あの風景はまさに私たちだったな、と思いました」(野村)

―実際にキュレーターの方々の間で行われたタイトルを決定する会議の音源をもとにしているんですよね?

奥村:はい。Zoom上の議論を一旦テキストに書き起こしして、それを再構成しました。スクリプト(台本)というよりも一種のスコア(楽譜)ですね。

もちろん日本語なんですが、アンドリューにはそれを黙読しながら、即興で英語に「通訳」してもらいました。さらに彼の声を日本語字幕にするため、アーティストで小説家のミヤギフトシさんに再翻訳をお願いして。2人には基本的に自由に訳してもらったのですが、人称代名詞に関してはインストラクション(指示)もあったり。

―ややこしい(笑)。

奥村:スコアの段階では、もちろん人格はバラバラのままですが、どれが誰の発言であるかは明らかにしていないんです。いちおう改行で話者が切り替わったことはわかるんだけれど、それぞれ誰かはわからない。

そうするとアンドリューの解釈によって複数の話者が1人のように繋がったり、1人が複数に分かれたりする。ミヤギさんの翻訳でも同じようなことが起こる。声によって人格を統合するといっても、どうしても多重人格性が残るんですけど、その多重性の境目もオリジナルからずれていくわけです。

野村:さらに作品のための映像を撮ったのがアーティストのリー・キットですからね。冒頭に、ボートを漕いでいるシーンがあるじゃないですか。あの風景はまさに私たちだったな、と思いました。4人の異なる人格を持った人物が一生懸命スワンボートを漕いでいるんですが、何処に行ってしまうのかわからない(笑)。

奥村雄樹の出品作『孤高のキュレーター』より Courtesy MISAKO & ROSEN, Tokyo and La MAISON DE RENDEZ-VOUS, Brussels
奥村雄樹の出品作『孤高のキュレーター』より Courtesy MISAKO & ROSEN, Tokyo and La MAISON DE RENDEZ-VOUS, Brussels(展覧会サイトはこちら

奥村:(笑)。以前、アンドリューによるキットのインタビューの和訳を僕が担当したんですよ。アンドリューの提案で、キットの頭の中に響く複数の声にフォーカスして訳したのですが、諸事情でお蔵入りになった。だから今回の人選は、僕のなかでは必然的なんです。

映像に関しては、キットに「自問自答するときに眺めている景色や繰り返している行為について」というお題を出して、あとは丸投げです。編集済みのクリップをいくつか送ってくれたのですが、スワンボートも予想外だったし、海のシーンも「長っ!」ってびっくりしました。とにかく今回の作品は、3人がそれぞれリモートで進めてくれた仕事を、最終的に僕のところで合体させた結果なんです。

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イベント情報

オンライン展覧会『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
オンライン展覧会
『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』

2021年3月30日(火)~5月5日(水・祝)

主催:独立行政法人 国際交流基金
参加作家:
荒木悠
潘逸舟
飯山由貴
小泉明郎
毛利悠子
野口里佳
奥村雄樹
佐藤雅晴
さわひらき
柳井信乃
吉田真也
キュレーター:
木村絵理子
近藤健一
桝田倫広
野村しのぶ

プロフィール

木村絵理子(きむら えりこ)

横浜美術館・主任学芸員、ヨコハマトリエンナーレ2020企画統括。主な展覧会に、“HANRAN: 20th-Century Japanese Photography”(ナショナル・ギャラリー・オブ・カナダ、オタワ、2019-2020)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展(2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」展(2011)、「束芋:断面の世代」展(2009-2010)、「金氏徹平:溶け出す都市、空白の森」(2009)ほか。この他、横浜トリエンナーレ・キュレーター(2014、2017、 2020)、關渡ビエンナーレ・ゲストキュレーター(2008、台北)、釜山Sea Art Festivalコミッショナー(2011、釜山)など。

桝田倫広(ますだ ともひろ)

東京国立近代美術館・主任研究員。主な展覧会に「ピーター・ドイグ展」(2020)、「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960–1990年代」(共同キュレーション、東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、2018–2019)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」(共同キュレーション、2015)、「高松次郎ミステリーズ」(共同キュレーション、2014–2015)など。

野村しのぶ(のむら しのぶ)

東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター。主な展覧会に「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」(2019)、「単色のリズム 韓国の抽象」(2017)、「サイモン・フジワラ|ホワイトデー」(2016)、「ザハ・ハディド」(2014)、「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」(2014)、「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」(2010)、「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」(2009)、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」(2006)、「アートと話す/アートを話す」(2006)。外部の仕事に《都市のヴィジョンーObayashi Foundation Research Program》推薦選考委員、「シアスタ−・ゲイツ」(2019)、「会田誠展「GROUND NO PLAN」(2017)。

奥村雄樹(おくむら ゆうき)

1978年、青森県生まれ。現在、ブリュッセルとマーストリヒトを拠点に制作活動を行う。奥村は、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、キュレーション、翻訳など多岐にわたる実践に取り組んできた。例えば彼は1960年代から70年代にかけての美術動向や、河原温といった実際の作家などを取り上げ、再解釈や翻訳によってそれらに介入し、時にはフィクションのような挿話や設定を挟む。その過程で不可避的に生じる主客のずれによって、凝り固まった諸関係は一時的であれ可変的なものになる。近年の主な展覧会に、「29771日–2094943歩」(ラ・メゾン・デ・ランデヴー、ブリュッセル、2019)、「彼方の男、儚い資料体」(慶應義塾大学アート・センター、東京、2019)、「Na(me/am)」(コンヴェント、ゲント、2018)、「奥村雄樹による高橋尚愛」(銀座メゾンエルメスフォーラム、東京、2016)など。

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