尾崎世界観が岡本太郎を想う。『岡本太郎と「今日の芸術」』展
『岡本太郎と「今日の芸術」 絵はすべての人の創るもの』- インタビュー・テキスト
- 内田伸一
- 撮影:豊島望 編集:川浦慧、宮原朋之

「芸術は爆発だ!」の名フレーズを放ち、渋谷駅の壁画『明日の神話』や、今年約半世紀ぶりに内部が公開された「太陽の塔」で知られる芸術家、岡本太郎。84年の生涯で多くの人々を刺激した彼は、わかりやすい言葉と強いメッセージをもつ著書も多く残しました。中でも『今日の芸術』は、1954年の発行から読み継がれるベストセラー。伝統や慣習を疑い新たな表現を探ることや、すべての人が創造的に生きる意義が、熱く理知的に語られます。
同書のメッセージを、豊富な作品とともに美術展として届けるユニークな企画が、『岡本太郎と「今日の芸術」絵はすべての人の創るもの』展。今回その会場であるアーツ前橋を訪れたのは、クリープハイプのフロントマン、尾崎世界観さんです。現代人の一筋縄ではいかない感情を鋭い比喩で歌い、小説家としてもその才能を発揮する彼がとらえる『今日の芸術』と岡本太郎のメッセージとは?
「わからないこと」が多くなってきているからこそ、語るということは今すごく必要になっている。
アーツ前橋は、群馬県前橋市の美術館。地域と芸術文化の関わりを大切にする同館と、「問題は、けっして芸術にとどまるものではなく、われわれの生活全体、その根本にあるのです」との書き出しで始まる『今日の芸術』は響き合うものがあるのでしょう。加えて今年の春、アーツ前橋から歩いていける広瀬川沿いに、長く非公開だった岡本太郎の『太陽の鐘』が移設された縁も、本展のきっかけだそうです。まずは尾崎さんに、本展覧会に興味を持った理由からうかがいました。
尾崎:今回のお誘いを引き受けてみようと思った理由のひとつは、そもそも自分が岡本太郎さんのことをまだ詳しく知らないということでした。僕はもうすぐ34歳なのですが、この機会にちゃんと知ることができたら貴重な経験になるし、こういう人間が「岡本太郎」を感じたままに語るのも、客観的にみて面白いかもしれないと思ったからです。
展示は1階から始まり、地下の広い展示室に続きます。尾崎さんを案内する学芸員の若山満大さんが、本展の特徴を教えてくれました。
若山:展示は、書籍『今日の芸術』の章立てとリンクして進みます。1階の序章には『太陽の鐘』関連展示と、時代を超えて6回発行されてきた書籍『今日の芸術』の表紙を飾った岡本の絵画群、発行時にベストセラーだった他の書籍を並べてみました。
尾崎:6回それぞれの発行年における、その他のベストセラーも興味深いですね。現代に近づくほど、わかりやすくなっているように思えました。本が読めなくなっているのか、あるいはわかりやすいものばかりが人気になってきたのか。でも、裏を返せば「わからないこと」が多くなってきているからこそ、語るということは今すごく必要になってきていると思います。
『今日の芸術』は、長く読み継がれてきたとも言えるし、本自体は変わらなくても周りの状況が変わるから、この本の持つ意味も時代と共に変化してきたのではないでしょうか。岡本さんが作品以外にも、本やテレビ出演などでどんどん発信していたのは、「言わなきゃわかってもらえない」という気持ちが強かったからなんじゃないかと思いました。
展示全体のあちこちに、『今日の芸術』から抜粋した岡本太郎の言葉が並ぶのも本展の特徴です。それらは決して小難しくはなく、力強いメッセージを放っています。
僕も自分の音楽を、別の人があたかもすべて知ったふうに解説したら腹が立つと思います(笑)。
第1章「なぜ、芸術があるのか」で、岡本は豊かにみえる現代人の暮らしが実は歯車の一部と化していて、そこからの「自己回復」に芸術が大きな役割を果たすと説きます。
尾崎:岡本さんの作品を見ていると、色使いも形も、すごくゴツゴツしていますよね。体や心が疲れてくると、自分が平たくなっていくような感覚があって。でもこうした力強い作品を見ると、自分の中にある凹凸が改めてちゃんと感じられる気がします。いろんな人が岡本さんの作品に元気をもらったと言うのは、そういうことかなと感じました。
若山:書籍『今日の芸術』は、とても平易な文体なのも、多くの人に読まれた理由だと思います。当時の出版元の編集方針もあって、中学2年生でもわかるような語り口で書かれたといいます。たとえば、第2章「わからないこと」では、抽象芸術などの「わからなさ」をむしろ魅力として説き、その対極として、八の字を描けば誰もが美しい富士山だとわかる、といったお約束的表現を「八の字」文化と呼んで批判しました。
尾崎:岡本さんはすごくインパクトのある作品を残した一方で、自分の考える芸術を言葉できちんと説明していますよね。だから、本を書くのも自然な流れだったのだろうと思えました。自由に作っているようだけど、なぜそうなるのかについての言葉も同時に出てくる、そんな説得力があります。
わからなさということで言えば、初期の代表作『コントルポアン』(1935年)の、抽象と具象のあいだのような表現も岡本作品の特徴のひとつ。しかし、残されたスケッチ資料から何が描かれたのかが推察できるものもあり、若山さんはギャラリーツアーなどでそうした解説をすることもあるといいます。
若山:ただ、「わからなさ」の魅力を説いた彼のような作家の作品を解説することには、矛盾を感じることもあります(苦笑)。
尾崎:学芸員の方にそういう葛藤があるのはすごく興味深いです。確かにこの本に書かれたようなことからすれば、解説をするのは矛盾もありますよね。僕も自分の音楽を、別の人があたかもすべて知ったふうに解説したら腹が立つと思います(笑)。でも、自分が死んだ後に「解説することには矛盾もあって、迷いながらやってます」と言いながら語ってもらえるなら、嬉しいだろうなと思います。
イベント情報
- 『岡本太郎と「今日の芸術」 絵はすべての人の創るもの』
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2018年10月5日~2019年1月14日
会場:群馬県 アーツ前橋
時間:11:00~19:00
休館日:水曜、12月28日~2019年1月4日
料金:一般600円 65歳以上・学生400円 高校生以下無料
- 記念講演『岡本太郎と読む「今日の芸術』』
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2018年11月11日
会場:群馬県 アーツ前橋 1階スタジオ
時間:14:00~16:00
ゲスト:春原史寛
定員:40名 料金:無料
リリース情報

- クリープハイプ
『泣きたくなるほど嬉しい日々に』(CD) -
2018年9月26日(水)発売
価格:2,970円(税込)
UMCK-16071.蛍の光
2.今今ここに君とあたし
3.栞
4.おばけでいいからはやくきて
5.イト
6.お引っ越し
7.陽
8.禁煙
9.泣き笑い
10.一生のお願い
11.私を束ねて
12.金魚(とその糞)
13.燃えるごみの日
14.ゆっくり行こう
プロフィール

- クリープハイプ
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尾崎世界観(Vo/Gt)、小川幸慈(Gt)、長谷川カオナシ(Ba)、小泉拓(Dr)からなる4人組ロックバンド。2012年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。2014年には日本武道館2days公演を行うなど、シーンを牽引する存在に。2017年、映画「帝一の國」主題歌『イト』をリリース。今年の5月11日には約4年ぶりとなる日本武道館公演「クリープハイプのすべて」を開催。