いまやウェブサイトは、私たちの暮らしに欠かせない存在になっています。
インターネットの広大な海には無数のサイトが存在し、それらは、ウェブデザイナーやフォトグラファー、イラストレーターたちの手によって構築されています。
そういったクリエイターたちの活動を俯瞰し、20年にわたってキュレーションしてきた「S5-Style」。ウェブデザイナーの田渕将吾さんが自身の学習の一貫として始めたそのサイトは、「すべてのクリエイティブに光を当てること」をコンセプトにリニューアルオープンしました。田渕さんは、素晴らしいデザインの集約はもちろん、それらをつくりだすデザイナーやクリエイターが交流できる場を生み出し、デザインの未来に貢献したいと語ります。
さまざまなかたちでウェブサイトに携わるクリエイターたちは、何をインスピレーションにしているのでしょうか? 第一線で活躍する5人(宇都宮勝晃さん、尾花大輔さん、菅野友香さん、久野遥子さん、中村勇吾さん)にメールインタビューを行ない、イメージの源泉や学習術、仕事術について語ってもらいました。
インスピレーションとは、「考える対象」と「異質な何か」が結合したときに生まれるもの——宇都宮勝晃さん
—集中力やモチベーションを向上させるための工夫や、リラックスはどのようにされていますか?
宇都宮:最近では特に「おもしろがる」ということを意識するようにしています。その対象に自分自身の個人的な関心事やテーマとの共通項を探し、「おもしろみ」を見つけ、自分自身で「おもしろがっていく」。一個人としておもしろがる事がそこで出来ると、その仕事は仕事であることを超え、自分にとってより大切なものへと変わっていく為です。そしてそれがものをつくっていく過程で避けることのできない、途方もない手間や面倒さを乗り越える支えにもつながっていきます。
一方「おもしろがる」ために必要となるのは「一定の余裕」だと感じるようにもなってきました。精神的、身体的、経済的、全てです。そこに一定の余裕がない場合、好奇心は生じにくくなり、対象へおもしろさを見出す機会すら自ら閉ざしてしまう。そんな経験をこれまで多く積み重ねすぎてしまった反省もある為です。何か一つの対象・考え・環境だけに依存をしない、偏りを作らない、熱狂をしない。つまり自分で自分を大事にする(=ケアをする)ということが大切なのでは、と最近は思うようになっています。
—ウェブデザインのインスピレーションの源は、どのようにして得られていますか?
宇都宮:インスピレーションとは、「考える対象」と「異質な何か」が結合したときに生まれるものと自分は理解しています。
それをジェームス・W・ヤングは「一般的資料」と「特殊資料」の組み合わせから、新しい価値が生まれる。」と定義づけています。
この考えを前提とすれば、クライアント情報などの「特殊資料」を知る・分析することはもちろんまず必要ですが、「一般的資料=一般的な知識」をより増やし深めること、さらに言えば考える対象から「少しでも異質で遠いもの」を知ることも一方で大切だと考えています。組み合わせ数は多ければ多いほど、異質で遠くあればあるほど、ユニークなものへとつながっていく可能性が高まる為です。
そのため過去の/今のデザインを知ることは一つの前提のうえで、なるべくデザインから離れ、より遠くへ関心を走らせる事を最近は特に意識するようにしています。
一方、対話型生成AIの発達と普及により、表現ツールがより民主化され、表現がフラット化される中で求められるものとは、審美眼と倫理観だと自分は考えています。審美眼とは、量によって磨きと確信とスタイルが定まり、倫理観は、幅と深さによって想像力が養われていくものだと信じています。
と言うとストイックに聞こえるかもしれませんが、基本的には直感と好奇心にまかせ、その時々で「おもしろそう」と感じたものを素直に逆らわず、受け取るようにしています。
—この仕事があったからこそいまがあるというような、そんな体験はありますか。
宇都宮:これは今もある自分の課題なのですが、特に過去、多く囚われていたのは「こうでなければならない」という一つの回答への固執です。
例えば「デザインとは、課題解決である」といった単純化された定義への囚われがそうでした。これはもちろんその通りな回答ではありますが、今ではそれは前提のうちの一つというふうに捉えるようにしています。それ以上に一人のデザイナーとして大切なのはその先にある、という考え方に今の自分は関心がある為です。例えば「いかに美しいか?」や、「いかに相手を幸せにするものであるか?」や、「いかに循環へとつながるものであるか?」のような視点です。
このような「その先」を目指していくうえで求められるのは、これは綺麗事に聞こえてしまうかもしれませんが、突き詰めるとやはり「人間と自然への理解」ではないかと自分は捉えています。そのためデザインを参照する事と同じく、芸術、音楽、文学、詩、哲学、建築、人類学など幅の広い関心と理解が求められてくると思いますし、また一方で自然美に感嘆し、五感を養い、それらをどうデザインとして結合し、送り出せるかがひとつの回答となってくるのではとも考えています。
そのうえで2021年に制作したShhh Inc.の自社サイトは、小さなヒントを見つけたというレベルではありますが、日本的美意識と自然美を結びつけ、デザインと表現とはひとつになり得るし、それが自分がこれから目指していく姿のひとつであるということをはじめて実感した、自分にとっては1stアルバムのようなプロジェクトだったと捉えています。
—仕事において、大切にしていることや感覚は何でしょうか。
宇都宮:冒頭の回答の延長で考えると、「今、自分は一個人としてどれだけ本音でおもしろがり、使命感を覚えながら仕事ができているだろう?」という問いかけへつながってくるのではと思います。
もう少し具体的に言うと「目の前の相手(クライアントやユーザー)に、喜んでもらいたいとどれだけ心から思えているか?」や、「この仕事をどれだけ"おもしろがれ”ているか?」、または「この仕事によって、人や社会のために役立てられる事へどれだけ実感が持てているか?」を問いかけた時、正直なYESがそこにあるか、という事。自分自身の欲も含めた本音と向き合い、違和感を見過ごさず注意を払うことが大切なのだろうと考えています。
そしてこのどれか一つにでも正直なYESがあれば、結果は必ずより良いものへ近づいてくると自分は信じています。
—ウェブサイトや、ウェブデザインで、どのような未来を思い描かれていますか。ウェブが社会にもたらす「力」とはどのようなものだと考えられていますか。
宇都宮:人は「良いもの」へ触れると、「良さ」への解像度がそれまでより高まり、目覚め、基準が引き上がっていく。そんな良い意味での「慣れ」の性質を有しています。
これは自分たちが普段触れるウェブサイトについても同じことが言えると思います。言葉の選び方、文字の選び方、組み方、余白への意識、アニメーションの気持ち良さ……。これら一つ一つを慎重な精査のうえで、全体から立ち上がる印象や感覚、つまり「良い」への基準を引き上げていく。この積み重ねの結果生まれるのが、美意識や文化だと考えています。もっと平たく言うと「豊かさ」なのだと思います。
素晴らしいウェブサイトが一つ世に投じられただけで、その業界における基準が引き上げられ、ルールが変わっていく。これは例えば「S5-Style」さんのようなキュレーションサイトなどを通じ、皆さんも日々発見し実感されている通りだと思います。この「良い」への基準の更新頻度と更新品質に自覚的でありたいですし、そこに自分もなんらか関与し続けられるようでありたい。それにより「豊かさ」へとつながる役割の一端を担うことができたら、と思っています。
誰の味方にでもなれることがデザインの魅力——尾花大輔さん
—デザイナーを目指したきっかけを教えてください。
尾花:デザインとの最初の出会いは20歳頃、音楽活動をしていた時に友人のライブ告知チラシを作ったことでした。その時に、初めてグラフィックデザインという手法を知ったように思います。知り合いのPCに入っていたPhotoshop(たしかバージョン7.0)を使わせてもらって、寝るのも忘れて何日も作業に没頭したことをよく覚えています。操作が全く分からず一つ一つ独学で覚えていったので、フォント一つ選ぶのに5時間くらいかけたり。今考えると、出処不明の情熱に溢れてました。
ちょうどその頃、原研哉さんや佐藤可士和さんがアートディレクターとして世間的にも名前が出たり本を出されていた時期で。自分はデザインとは全く関係のない大学に進み、就きたい職も想像できず将来に希望が持てなかったのですが、その頃に見た原研哉さんの「デザインのデザイン」や、葛西薫さんが携わられたサントリーウーロン茶の広告等を見て、こんな素晴らしい仕事があるんだと。自分の得意と、進みたい道と、目指すものが一本に繋がった気がします。
元々何かを作ったり絵を描くのは好きで、小学生の時は友人たちを主人公にしてオリジナル漫画(ほぼドラゴンボール)を描いたり、美術の授業で大判紙に「ウォーリーを探せ」のような細かい絵を描くのに熱中していました。高校生の頃は写真が好きでよくフィルムカメラで撮ってブログなんかに載せていたのですが、実は、写真やイラストなどのイメージそのものを作るというより、イメージと文字(伝えること)の関係性に強く惹かれていたんだと今は感じます。
—印象に残っている仕事のエピソードはありますか。
尾花:ウェブ制作会社で働いていたとき毎年関わっていたテレビ会社のリクルートサイト制作では、クライアントとの直接のやりとりを通じて、自分の技術と感性が社会で役立つという自信を持てるようになりました。独立前に手がけた友人の絵描きミロコマチコさんのポートフォリオサイトは、個人規模のウェブデザインでどこまで自由にできるか、依頼主と一緒に作っていく楽しさを知る機会となった仕事です。バターサンド「積奏」のブランディングでは、信頼している方々と一緒にウェブサイトやグラフィックツールなど全般を担当し、違う分野の方と連携して大きなものをつくっていく掛け算の強さを感じました。
最近では、桑沢デザイン研究所での講師業や、Colosoでのオンライン講座制作など、教えることで自分自身もたくさん学んでいます。大きな影響を受けているので講師業も大きく印象に残る仕事の一つかもしれません。
印象深い仕事、楽しかった仕事や失敗も、他にもここでは挙げられないほど沢山あるな、と質問を受けて思いました。正直にいうと、作ったものは100%依頼主のものになってほしいのでそれぞれ思い返すことがあまりありませんでした。沢山の方の手伝いができてほんと幸運だなと思います。
—仕事で大切にしていることは?
尾花:普段から人の機嫌や感情を察知しすぎてしまう性格で、周りの立場や意見に合わせてその場を成立させようとする人間なので、その特性を活かして、できるだけ相手の感情に自然に静かに寄り添えるような仕事がしたいと考えています。我を通して自分の作りたいものだけを作るやり方は、あまり考えられないし合わない事が多いです。なので、紙媒体でもウェブでも、相手にとって必要で役立てる内容であれば分野問わず何でもしたいなと思っています。引越しの手伝いでも草むしりでも、手伝って喜んでもらえるんであれば何でも良くて、そしてどうやら自分は平面構成がまあまあ得意で、その「得意」と「需要」の接点が「デザイン」と呼ばれているらしい、という感覚でいます。目の前の人の役に立てるなら何でも良いし、誰の味方にでもなれることがデザインの魅力だなと。
そんな気持ちが前提にあるので、誰が喜んで誰が必要としてるか把握できない仕事はむちゃくちゃ向いてないな〜…と常々思います。あとは、合わせる性格が元で、強い意見に引っ張られたり中途半端な着地になってしまう事も昔は多くて。やっと歳も重ねて自分の感覚を信じられるようになってきたので、最近ではバランスを考えつつ、自分の意見や感情も大事にしています。美しいと感じたことは必ず美しいし、怒りやもやもやも、ちゃんと説明していくべきだなと。
数字や結果が重要な分野なのはもちろん理解しつつ、まあまあ気楽にこの感じでやって行こうと思います。気が合う人と、気負わず肩肘張らず、分かち合って、良いものを作っていければ十分です。最高です。
—インプットをするための工夫や努力は、どんなことをしていますか?
尾花:気になるデザイン系の新刊や展示は見るようにしています。ネットではSNSやPinterestなどの画像収集サービス、最近はInstagramで見る違う世代のデザイナーや海外のお仕事もインプットになっているかも。ウェブデザインで言うと国外問わずギャラリーサイトはなるべくチェックしています。ただ、ウェブデザインは業界の流行り廃りを強く感じる分野なので、クライアントの目指すところや自分の得意不得意、ターゲットや意図などしっかり理解/整理して、目的を据えてインプットするようにしています。
あとは、紙媒体とウェブデザインどちらも生業としているので、ウェブサイトを作るときはウェブサイトから、フライヤーを作る時はフライヤーから、のようにアウトプットと同じ分野だけをインプットすることに違和感を感じているかもしれません。同じ時代の同じ分野で同じものを見て作っても、みんな似た成果物ばかりになってしまうので、分野を横断して大きく広い視点で参考を探します。例えば、雑誌の文字組みや導線などウェブサイトで参考になる事は多いし、逆にウェブサイトのTOPと下層ページそれぞれで細かく印象を統一していく作業は、グラフィックツールの展開に通じるものがあると思います。なるべく解像度高く、分解して見れたらと。
最近は、欧文と繁体字、縦組と横組が組み合わさった文字表現など、多国籍だったり異国感のあるタイポグラフィーに惹かれているので海外の文字に興味があります。他文化のことも学びながら自分が気持ちいい重力や組み合わせを探ってみたいです。
—アイデアの原点は、どのようにして得られていますか。
尾花:上記に書いたように、仕事の参考やアイデアの元はいつもアンテナを張って探しているんですが、それ以上に、編集されていない経験や会話や感覚、季節や自然など、デザインと離れた場所にデザインの引用を見つける事が多いかもしれません。また、クライアントさんとの会話で感じた人柄や雰囲気も(無意識でも)アイデアの原点になってきたと思います。
デザインの制作手法は様々で、粘土を形作るようにデザインする人もいれば、仏像のように対象から形を掘り出すようにデザインする人もいます。自分は、元々良い素材や瞬間がそこにあり、それをそのまま縁取りするように、写真を撮るようにデザインしていると感じてます。仕事でも仕事以外でも、心が動く素晴らしい人や瞬間に沢山出会いたいと常々思います。
1点もののオーダーメイドをつくるということ——菅野友香さん
—「好き」の根源は、いったいどんなところにあるのでしょうか? デザインの仕事にはどんな喜びがありますか。
菅野:私は自分の感情やテンションを動かして、楽しい気持ちにさせてくれるものが大好きです。
たとえば漫画やアニメ、スポーツを見ることがすごく好きなのですが、全てに共通しているのが、ときめいたり感動したり笑ったり、さまざまな感情にしてくれるというところです。
昔からデザインが好きだった理由も同様で、幼少期に自分のブログをカスタマイズしたり、待受画像を作ってみたりしていたのも、自分の媒体をかわいくすることでテンションが上がるから、楽しかったんだと思います。
なので今も、何を作るにもまず自分自身が見て「良い!」と思える、テンションの上がる物を作りたいと思っていますし、そしてそれを公開した時に、クライアントが喜んでくれたり、周りやユーザーがさまざまな反応をしてくださっているのを見ると、デザインの楽しさを感じます。
—お仕事をされながらウェブデザインを学ばれていたと聞きましたが、当時や就職してから大変だったことは何でしょうか。
菅野:学び始めた頃は、大変というよりも楽しいという気持ちのほうがずっと強くありました。パソコンを操作するのはもともと好きでしたし、新しいことができるようになるのはずっと楽しかったです。
就職してから大変だったのは、デザイン以外にもやらなければならないことがとても多く、それを全部自分でしなければならなかったことです。
私が所属する会社では、最初未経験で入社したにも関わらずアシスタントからではなく、初めからプロジェクトにデザイナー1人で入らせていただいていました。入社して初めて担当したのがある企業の企画だったのですが、企画案の提案からキャラクター作り、動画の制作など、全てが初めてで、やることが多くかなり大変だった記憶があります。
なので、最初の頃はプロジェクト内にアートディレクター的な存在が欲しかったですし、企画するのもすごく苦手でした。ですが、ここまで裁量権を持って企画やデザインに携われているといろいろ作れるものも増えてきて、やったことがなくてもガンガン試してみようと思えるようになったので、ありがたい環境をいただけたなと思っています。
—インスピレーションの源は、どのように得られていますか?
菅野:日常生活の中で、インスピレーションを得るためにしていること、というのはあまりないのですが、アニメや映画を見たり、美術館やライブに行ったり、興味の矛先をいろんなところに向けて、少しでも気になったものには軽率に触れるようにしています。
そうして色んな場所で体験したことたちが直接アウトプットにつながっているというわけではないのですが、いざ新しくものを作ろうと思った時、集めていた断片的な記憶が、ふとアイデアとして浮かんでくることがあるのだと思います。
以前は毎日ウェブサイトをチェックするようにしていたんですが、ずっとウェブだけを見ているとアウトプットがすでに見たことあるものになって、その領域から出られなくなってしまいそうだなと思ったので、そういったウェブ以外の表現を見ることも大事なのかなと思うようになりました。
—仕事において、大切にしていることや感覚は何でしょうか。
菅野:「1点もののオーダーメイドを作る」ということを1番大事に考えています。
写真を差し替えたら他のコンテンツでも使えるような、テンプレート的なデザインだと面白くないですし、「私が、その人のために作っている」という意味が薄れてきてしまうのではないかと思っています。
私はかなり経験も浅いですし、他に自分より優れたデザイナーやクリエイターはこの世に星の数ほどいらっしゃいますが、それでも自分だからできる仕事、自分がやる意味のある仕事をしていきたいなと常に思っています。
—ウェブデザイン、ないしデザインの「力」について、どのようにお考えでしょうか。お仕事によって実現したいもの、未来や展望はありますか。
菅野:デザインは、そのコンテンツを何倍にも魅力的に見せる力があると思います。
例えば、プラスチックケースに入ったスーパーのお団子と、綺麗な重箱に入ったお団子は、もし中身が同じものだったとしても全く違うものに見えると思うのですが、手にとってほしいものや味わってほしいものを相手にどう見せるか、デザインはその第一印象作りを担っているのだと思います。
私がつくっているウェブサイトやプロダクトは、リンクを開いたり蓋を開けないと中身を味わってもらえないものが多いので、中身を食べてもらうために、私がつくるもので「何かかっこいい!かわいい!面白そう!」といった第一印象をつくって、見る人をコンテンツの持つ世界の中まで引っ張りたいと思っています。自分のデザインがきっかけとなってコンテンツを手に取ってもらえるようになったら、すごく嬉しいです。
またそういうものを作るには作り手の愛情が結局1番大事だと思うので、個人的には自分が強く愛を持っている分野、アニメや漫画などのエンタメカルチャーに関わる制作を、これからはもっとしていきたいなと思っています。
つくりたいものを見極めてアウトプットしていくこと——久野遥子さん
—日常では、どんなルーティンで仕事に向かっていらっしゃいますか? 集中力やモチベーションを向上させるための工夫はありますか。
久野:そのときメインにしている仕事が何によるかで日々の生活はかなり変わってきます。少し前まで長編作品をアニメ会社で作っていましたが、そのときはずっと打ち合わせと実作業が交互にある感じでしたので無意識ながらに気分転換になっていた気がしました。
イラストやキャラクターデザインの仕事の場合は机に一人きりなのでこまめに休憩を取ることを大切にしています。
描くことに集中しすぎると見落としも増えたりしますので、全てを忘れる時間を作ってから絵を見直すと良い感じだなと。
—昨今、アニメーション映像やイラストレーションなどの作品において、SNSやウェブサイトを媒介して多くの受け手とつながる道筋がつくられています。そういった時代のなかで、仕事をするときに意識していることはありますか。
久野:中学生くらいから自分でHPを作ってイラストや漫画なんかを載せてましたが同年代の絵や写真が好きな子たちも同じようにHPやブログを作っている子ばかりでしたので全く特別感はありませんでした。
そんな中、大学の卒業制作で作ったMVがyoutubeにアップされたことをきっかけにたくさんの評価を受け、それが仕事に繋がっていきましたので自分のキャリアとウェブの関係は密接なものとなりました。
一方でウェブやSNSの世界は日に日にハイテンポになっているように思えて、SNSでの評価を主体に仕事をすることは危ういと感じています。
今の自分はいろんなタイプの仕事を受けていますが、どんな媒体の仕事であっても自分の「好き」を軽んじないことを大切にしています。
—学生時代に学んだデザインは、いまの仕事にどう活かされていますか?
久野:確かに大学のときグラフィックデザインを勉強していたのですが正直、授業中も課題のときもずっとチンプンカンプンでして、今もそこそこ苦手意識があります。
ただデザインの授業ではポスターひとつにしても「絵や写真だけを見るな」と言われたことは覚えています。
デザインはたくさんの要素で構成されていて、一見小さな要素であっても大きな役割を担っている可能性を意識するよう教えられました。
いまだになかなかバランス良く出来ないですが、絵描きとしての自分の役割を区切りすぎず、目線を狭めないことを気をつけています。
—インスピレーションの源は、どのようにして得られていますか?
久野:本当に当たり前のことでお恥ずかしいのですがいろんなものを見たり聴いたりすることです。
仕事によって進め方は異なりますが、特にイラストの仕事の場合だと、アイデアが頭の中に詰まってきたらスケッチを始めます。
スケッチにすることで、玉石混交のイメージの中で一番良いものを見極める感じです。
—いま、表現の道を志している人やデザインの道を志している人、すでに現場で奮闘している方々へ、メッセージをお願いします。
久野:アニメーション制作というものは延々と1枚1枚絵を描き続けることで、特に学生時代は本当に途方もなく感じていました。
ただプロになってもやっぱりアニメーション制作は途方もなくて、手数の量がクオリティに大きく関係する世界でした。
今、絵でご飯が食べられるようになって、小さなテクニックはいくつか身についたとは思いますが、本質的に絵を描くことの大変さや果てしなさはプロアマを問わないように思います。
だからこそ深刻にならず無理をせず、かといって投げ出さずにそのときそのときの描きたいもの、作りたいものを見極めてアウトプットしていくこと。それを習慣に出来ると、未来につながるのではないでしょうか。
デザインの背後にある人を意識して見る——中村勇吾さん
—ウェブサイト、ウェブデザインに託している思いを教えてください。
中村:私はデザインのすべてを見よう見まねで覚えたので、新しい刺激やこれからの目標となるデザインに接触しつづけていることは非常に大事なことでした。デザインの成果それ自体よりも、背後にある人を意識して見ています。目標となる人や仮想的なライバルと感じる人は、自分の新しいモチベーションの源になるからです。互いに切磋琢磨するデザイナーのコミュニティがもっと豊かになっていくといいですね。
編集部あとがき
寄稿を読み終え、ひとつのテーマであった「インスピレーションの源」に思いを馳せると、なんだか果てしない気持ちになりました。
ウェブサイトの向こう側にいる人々——つまり、作り手であるクリエイターらは、日々の会話や体験、四季、そして自然からもアイデアを得ている、そんな共通点があったように思います。つまり、この世界はアイデアが無数に散りばめられた宇宙であり、使い手もその一部であった、と。
インターネットと現実世界に区切りをつけることすら愚問であり、すべては相互にはたらきかけ合っているということでしょうか。そんなふうに考えると、自らの仕事もいっそう面白く思えました。(CINRA編集部・今川彩香)
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