コラム

TWICEが対峙する「欲望」の複雑さ。『Eyes wide open』が表すもの

TWICEが対峙する「欲望」の複雑さ。『Eyes wide open』が表すもの

テキスト
菅原史稀
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

“MORE & MORE”から“I CAN'T STOP ME”へ。「欲望」と「私」の関係

『Eyes wide open』を読み解くにあたり、サナはこんな解説で我々にヒントを与えている。

9枚目のミニアルバム『MORE & MORE』に続く世界観をお見せしたいです。純粋な雰囲気と魅惑的な雰囲気を行き来しながら新しい感覚を知ったことを表現した『MORE & MORE』からさらに一歩進んでストーリーを拡張させたんです。2つの作品の関連点を注意深く見てください!(前述の一問一答より)

今年6月にリリースされたミニアルバム『MORE & MORE』と本作が精神的続編であることは、それぞれのリード曲である“MORE & MORE”と“I CAN'T STOP ME”のMVとティーザー(リリース前に公開される予告画像や映像)において、齧られた林檎などの共通のモチーフが登場していたことからも示唆されていた。では“MORE & MORE”と“I CAN'T STOP ME”の2曲は何を分かち合い、どんな変化をみせているのだろうか。

TWICEのミニアルバム『MORE & MORE』を聴く(Apple Musicはこちら

まず“MORE & MORE”における以下のフレーズに着目したい。

<君の耳を何度も塞いでも / 私を遠くに突き放しても><私がまた君を呼べば / 私の声を聞けば / You're gonna be mine again / You're gonna say more(君は「もっと」と言う)>
<私が元々欲張りなのを知らなかったらごめんね / 先に謝っておくよ / Cuz I want you more more(君がもっと欲しいから)>

これらのフレーズを並べて興味深く思えるのは、前者では「君」から「もっと」と求められていた「私」が、後者では「君」を求める立場へと転換している点だ。この箇所以外にも「君」と「私」の間で求む・求められる主体がスリリングに行き来する描写がみられる同楽曲は、欲望というものが生む喜びを純粋に、魅惑的に伝えている。

TWICE“MORE & MORE“MV

続いて“I CAN'T STOP ME”の歌詞を参照しよう。

<答えはわかっているじゃない / でも向かっているじゃない / こんなことしたくないの / 私のなかに私がもう一人いるみたい / 私は求めているのに / 求めてはダメなの>

ここでは“MORE & MORE”において「君」と「私」の間で駆け引きのように揺れ動き、両者に喜びを与えていたはずの欲望が、今度は「私」を動かし「私」の喪失にも向かわせる危険な力へと姿を変えている。

TWICE “I CAN’T STOP ME”MV

このように<止めるのは嫌 / だからもう一度>と歌う“MORE & MORE”と、<I know it's not right / I can't stop me(ダメだとわかっていながら、自分を止められない)>と歌う“I CAN'T STOP ME”には「欲望の力」という共通の主題が跨りながら、前者はそれを喜びとして、後者は危機として描いている点が対照的に映る。そしてこの2曲が立ち上げる「欲望の力」の両義性は、まさに多方面から「欲望の力」が衝突し合うK-POPシーンの第一線を走り続けてきたTWICEというグループの立場を率直に示しているように感じられるのである。

2曲を繋ぐ「欲望の力」。TWICEを止めどなく動かしているものとは何か

ここであらかじめ断っておきたいのは、“I CAN'T STOP ME”をはじめとする『Eyes wide open』の収録曲はいずれも、多面的な解釈を与える普遍性を持つということだ。特に“I CAN'T STOP ME”については、曲中の「私」と「君」の関係から、恋愛ソングであると受け取るリスナーも少なくないと思う。

しかしその上で、筆者は本作の内容から彼女たち自身の姿を思い描き、そこから目をそらすことができないでいる。それは恐らく、筆者自身が彼女たちのいちファンとして、本連載の第1回(「笑顔だけではないTWICEの物語。“Feel Special”が歌う痛みと愛」)で綴った「ファンの呼ぶ声がアイドルの力になっている」ことを実感する喜びを知りつつも、その後の記事(「K-POPのファンダムの力を考察。自主性と連帯が生む熱狂と危険性」)内で触れた、ファンがアイドルを求める力こそアイドルを追い込んでしまっているという危機感、そして対談(「多様化するK-POPコンテンツとファンコミュニティ、その魅力と課題を考察」)内で語った、アイドルがステージを渇望する想いの行方のなかで葛藤する気持ちを抱えたまま、このアルバムと対峙しているからである。

だからこそ“I CAN'T STOP ME”MVのラストシーン、デビュー曲“Like OOH-AHH”のMVでバスに乗っていたときと同じ座席位置に腰を下ろした9人が、暴走する列車に身を預けたまま崖の上から今にも落下しそうになっているさまを見て、その列車を止めどなく動かす力となっていたのは何かということに想いを馳せてしまうのだ。

TWICEのデビュー曲“Like OOH-AHH”MV。2015年リリース

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