日韓コンテンツは「売る・買う」から「ともにつくる」時代へ。KOCCAが仕掛ける「共創」の最前線

日本と韓国のコンテンツビジネスが、新たな局面を迎えている。作品の輸出入や版権の売買にとどまらず、企画・制作の段階で手を組み、IPをともに育てていく関係へ。その背景には、海外展開のノウハウを求める日本と、国内市場だけでは高騰する制作費を回収しきれなくなっている韓国、それぞれの事情がある。

こうした動きを後押ししようと、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)は2026年9月29日から10月2日まで、東京・虎ノ門のKOCCA CKL TOKYOで「日韓コンテンツ共創ウィーク2026」を初開催した。初日のフォーラムでは、日韓のコンテンツ政策や映像作品の共同制作、IPビジネスをテーマに、両国の行政担当者や実務家が意見を交わした。

なぜいま、日韓は「ともにつくる」必要があるのか。協業の現場ではどんな課題が生まれ、どのような可能性が見えているのか。KOCCA東京ビジネスセンター長・李惠恩(イ・ヘウン)さんへのインタビューとフォーラムの内容から、日韓コンテンツビジネスの現在地を探る。

「売り買い」の先へ。東京の拠点・CKL TOKYOが担う役割

韓国コンテンツ振興院(KOCCA)は、韓国の文化体育観光部の政策にもとづき、2009年に設立された公的機関。放送、音楽、ゲーム、アニメーション、漫画など幅広い分野で、創作・制作から企業の海外進出、人材育成までを支援している。世界25か国28か所にビジネスセンターを展開しており、その一つが東京ビジネスセンターだ。

2024年11月には、東京・虎ノ門に「KOCCA CKL TOKYO」がオープンした。四ツ谷のコリアセンター内にあるKOCCAのオフィスとは異なり、日本市場で事業を展開する韓国企業のための入居型の支援施設。KOCCAの海外センターで、こうした施設が設けられたのは東京が初めてだという。

「韓国企業が日本のバイヤーにコンテンツを販売することと、日本で実際に会社を運営し、事業活動を行うことは、少し次元の異なる話です」

そう語るのは、2025年1月に東京ビジネスセンター長に就任した李惠恩(イ・ヘウン)さんだ。CKL TOKYOでは、入居企業にオフィスを提供するほか、法人設立に必要な行政手続きや書類作成、法律相談、日本の税制に関する研修などの経営支援を行っている。

入居企業は15社。毎年選考が行われ、一度入居すると延長審査を経て最長3年間利用できる。新たな入居枠は退去する企業の数に応じてしか生まれないため、競争率は高いという。

「CKL TOKYOを設立した最大の理由は、日本と韓国のビジネス関係が、単にコンテンツを売り買いする段階をすでに超えていると考えたからです」

入居企業の中心は、すでに日本で事業を展開し、共同制作や協業へと活動を広げようとしている企業だ。実際に共同制作で、ドラマ『私の夫と結婚して』などのヒット作も生まれている。

「共創ウィーク」が目指すもの。日韓が互いを必要とする理由

今回初めて開催された「日韓コンテンツ共創ウィーク」も、こうした変化を踏まえて企画された。KOCCAのほかの海外センターが開くビジネスイベントは、主に現地のバイヤーを集め、コンテンツを売買することを目的としてきた。一方、日本市場では、両国の企業が協力してコンテンツを制作し、グローバル市場を目指す動きが広がっている。

「最初はイベントのタイトルに『共同制作』という言葉を使おうと考えたのですが、一緒に創作したり、協力したりできる場をつくろうと、『共創』という名前にしました」

李センター長は、ここ2、3年で共同制作のあり方にも変化が見られると話す。以前は、両国が半分ずつ出資し、日本人と韓国人の恋愛を描くような典型的な作品が多かった。しかし最近では、韓国の制作会社が日本に進出し、日本企業と協力しながら、日本人俳優やスタッフを起用してドラマを制作するなど、協業の形が広がっている。その背景には、両国それぞれの事情がある。

日本のコンテンツ業界では、国内市場中心の事業からグローバル展開を強化しようという動きがあり、放送やK-POPで先行して海外進出を果たした韓国のノウハウを学ぼうとする企業もある。一方、韓国では、グローバル市場に対応するため作品の品質を高めてきた結果、制作費が上昇し、国内市場の規模だけでは費用を回収しきれなくなっている。市場規模が大きく、韓国カルチャーが日常に浸透している日本は、韓国企業にとって新たな制作の場としても注目されているという。

「以前はイベント的な性格が強かった日韓の協力が、今では両国のコンテンツ産業が、それぞれの必要性から、何かを一緒につくろうとする流れに変わってきているのだと思います」

小栗旬とハン・ヒョジュが主演を務めた『匿名の恋人たち』など、日韓の制作会社やクリエイター、俳優らが協業した作品が近年も数多く公開されている

「日韓コンテンツ共創ウィーク」1日目の3つのフォーラムでは、政策、ドラマ共同制作の現場、そして新たなコンテンツビジネスにそれぞれ深く携わる人たちが登壇。プレゼンテーションやパネルディスカッションを通じて、課題や最先端の事例を紹介した。

日韓のコンテンツ政策が見据える、「Made with Korea」の時代

フォーラム1「日韓両国のコンテンツ政策と支援施策」では、両国の政策の方向性を紹介。最初に登壇したKOCCA政策研究本部長のソン・ジンさんは、「韓流は、あらかじめ設計された成功ではありません。しかし同時に、単なる偶然によって生まれた成功でもなかったと思います」と、韓国コンテンツ産業の歩みを振り返った。

政府の役割は、コンテンツの内容に介入することではなく、産業のエコシステムが機能するよう制度や資金の面から支えることだったと明かす。2024年の韓国コンテンツ産業の売上規模は157兆ウォン(約18兆円)、輸出額は140億8,000万ドル(約2兆2,260億円)に達した。一方、近年は成長が緩やかになる兆しもあり、制作費の高騰や投資の縮小、AI技術の普及など新たな課題に直面している。

こうした状況を踏まえ、KOCCAが掲げるのが「NEXT K」というビジョンだ。ソンさんはROSÉ&ブルーノ・マーズがコラボしてヒットを飛ばした“APT.”やNetflixで配信されて人気を得た『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』など、韓国の文化やクリエイターとグローバルな制作システムが結びついた作品を例に挙げた。

「『Made in Korea』という次元を超えて、『Made with Korea』という視点が必要な時代になったのです」

海外パートナーと共同で企画・制作し、収益化まで共有する協力関係の重要性を強調したソンさんは、IPを軸に食品や美容、ファッションなどの関連産業とも連携していく方針を紹介。日本の製作委員会方式の経験についても、IPの寿命を延ばし、競争力を高めるうえで参考になると語った。

日本でつくり、世界に届ける。海外で収益をあげるための日本のコンテンツ戦略

続いて登壇したのは、経済産業省商務・サービスグループ文化創造産業課の大岩浩之課長補佐だ。日本政府はゲーム、アニメ、漫画、音楽、実写の5分野を重点的に支援し、現在約6.1兆円の海外売上高を2033年までに20兆円へ拡大することを目指している。

基本戦略は「IPの360度展開」。日本では複数の事業者が一つのIPを長期的に育てる仕組みが発達しているが、それが主に国内で完結しており、海外では一部の大手を除いて個々の企業が単独で戦わなければならないことを、大岩さんは課題に挙げた。政府は「日本でつくり、世界に届ける」という方針のもと、海外のクリエイターとの協業も促しながら、海外で収益を生む体制づくりを目指す。

具体策として、最大15億円の大規模作品製作支援や、海外企業も活用できるロケ誘致支援などを紹介。クリエイターの労働環境改善、資金調達手段の多様化、AIの活用と権利保護、海賊版対策、IPライセンス取引環境の整備も重要な課題に挙げた。

質疑応答でソンさんは「両国がコンテンツ産業を捉える視点や政策の目標、手段には、非常に多くの共通点がある」と述べ、日韓がともにアジア市場を牽引していくことへの期待を語った。

共同制作の現場が直面する課題と手応え

フォーラム2「日本と韓国の放送・映像業界における共同制作の成果と課題」には、日韓のコンテンツ制作に携わる3人の実務家が登壇した。日韓の制作文化の違いは、実際の現場でどんな課題を生み、それをどう乗り越えているのだろうか。

TBS KOREA代表取締役社長の片山剛さんは、TBSが韓国企業と進める事業を紹介。TBSは2026年4月、韓国のCJ ENM、日本のU-NEXT HOLDINGSとともに、日本の俳優・スタッフによる日本語ドラマを制作し、グローバル展開を目指す合弁会社「StudioMonowa」を設立。NAVER WEBTOONなどと韓国に設立した「Studio TooN」では、ウェブトゥーンの制作を通じて新たなIPの開発に取り組んでいる。

JAYURO PICTURES ENTERTAINMENTのチョン・ジェウォンCEOは、韓国のウェブ小説を原作に映像化した『私の夫と結婚して』の事例を紹介した。小芝風花、佐藤健ら日本人俳優を起用し、韓国からはアン・ギルホ監督が参加、制作チームは日韓合同という体制でつくられた。

実際に作品をつくる過程では、多くの課題も生じる。例えば、しばしば問題となるのが、脚本や演出に対する考え方の違いを、制作の初期段階でどのように共有するかということ。

株式会社ロボットの小出真佐樹プロデューサーは、韓国の脚本には映像を具体的に想起できる描写が多い一方、日本の脚本はト書きが少なく、せりふを中心に構成される場合があると説明。韓国の俳優に日本の脚本を渡した際、人物の感情や場面の意図が伝わらず、監督とともに説明に出向いた経験を語った。

さらに、撮影日数や労働時間の管理、スタッフの待遇などにも違いがあるという。片山さんは、韓国では週4日程度の撮影を基本とするドラマ制作もある一方、日本のテレビドラマでは週5、6日の撮影になることがあり、制作費やスケジュールの組み方が異なると説明した。

一方、チョンさんは『私の夫と結婚して』の撮影を振り返り、韓国人監督のさまざまな要求に真摯に応えようとする日本人スタッフの姿勢や、日本人俳優の準備の丁寧さが、監督に強い印象を残したことを紹介した。監督は撮影後、機会があれば再び日本でドラマを撮りたいと話していたという。

チョンさんは、国際共同制作では資金や経験に基づくノウハウが必要であることを認めたうえで、企画段階から相手を尊重し、長期的なパートナーシップを築くことの重要性を強調した。

キャラクター、アニメ、ライセンス。業種を越えて広がるIPの協業

フォーラム3「日本と韓国のIPが生み出す新たなコンテンツビジネス」では、アニメーションやキャラクター事業を通じた協業事例が紹介された。キャラクター事業やアニメーションの共同制作では、どのような工夫がなされているのだろうか。

ACOMMZのExecutive Vice President、イ・ユンミさんが紹介したのは、緑色の毛むくじゃらの体に鋭い目つきのキャラクター「WASABI BEAR」だ。SNSでファンを増やしてから商品化するのではなく、ポップアップや展示会での販売で「買ってもらえるIP」であることを先に証明する。その戦略で、デビューから約2年で韓国、中国、台湾、香港、日本へと市場を広げてきた。日本ではテレビ東京コミュニケーションズと組み、ポップアップやカプセルトイ、パク・チャヌク監督『しあわせな選択』とのタイアップを実施。イオンの約4,600店舗でのプロモーションも予定している。

クランチロールの高橋佳那子さんは、韓国のウェブトゥーンを原作とする日本アニメ『俺だけレベルアップな件』『テムパル~アイテムの力~』を紹介した。『俺だけレベルアップな件』では、主人公の名前を韓国名で愛する海外ファンと、日本名で親しむ日本の視聴者の双方に応えるため、声優に2回収録してもらい、グローバル版と日本版の2バージョンを制作したという。高橋さんは、日本の製作委員会という仕組みの特殊性にも触れ、「双方の歩み寄りや理解が必要。互いの密なコミュニケーションと信頼関係が重要」と語った。

ロッテホールディングスの堀江かほりさんは、日韓にまたがる「ハイブリッド企業」としての強みを生かす「ワンロッテ」の取り組みを紹介した。韓国生まれのキャラクター「ベリゴム」は日本で、日本の『ぼのぼの』は韓国で、それぞれマスターライセンシーとして展開。今年9月にはグッズ企画などを手がけるスモール・プラネットに出資した。「日韓をまたいでやってみたいことがあれば、その間に入るハブになりたい」と語る。

韓国から日本へ、韓国の原作が日本のアニメになって世界へ、そして日本から韓国へ。3つの事例は、IPが一方通行ではなく、国境を往復しながら価値を広げていく時代の到来を示していた。

「お客さん」ではなく、対等なパートナーに。KOCCAセンター長が日本企業に期待すること

3つのフォーラムで語られた現場の声は、李センター長自身の実感とも重なる。着任後、共同制作に取り組む日韓の放送局や制作会社を訪ねて話を聞くなかで見えてきたのは、細かな「システム」の違いだったという。

「文化がまったく違うわけではないので、協力できる雰囲気はあります。でも、たとえば日本の製作委員会方式は韓国にとってなじみの薄いものですし、仕事の進め方やコミュニケーションの取り方も違う。日本のコンテンツ業界にはどこか職人気質があって、韓国はクリエイティブをより重視する。韓国の人は制作の場でもストレートにものを言うので、日本の方が戸惑うこともあると聞きました」

「まだまだお互いをよく知り、ノウハウを蓄積していく必要があると感じました。それが、私たちが『日韓コンテンツ共創ウィーク』を企画した理由でもあります」

今回のイベントでは、初日のフォーラムに加え、CKL TOKYO入居15社がピッチを行い、ブースを設けて日本のテレビ・映画関係者らとのビジネスマッチングをする機会も設けられた。さらに、最終日のワークショップでは、日本のビジネスの特徴や製作委員会方式、ロケ撮影に関する支援制度などを取り上げ、韓国企業が日本で事業を進めるための実務的な情報を共有した。

KOCCA東京ビジネスセンターは、入居している韓国企業への法律、税務、経営面の支援を続けながら、日本企業との共同制作や協業の機会を広げていく。「日韓コンテンツ共創ウィーク」も、同センターを代表するイベントとして継続的に開催していく考えだ。

「韓国と日本の企業が継続的に出会い、これからも協力し合っていくための基盤になってほしい。そのため、私たちはこのイベントを『プラットフォーム』と表現しています」

日本企業への期待について、李センター長はこれまでとの違いをこう語る。

「これまで私たちのセンターが日本でイベントを開くときは、韓国企業が中心で、日本の方はバイヤー、いわばお客さんとして参加する形でした。でもこのイベントは、韓国企業が何かを売るための場ではなく、韓国企業と日本企業が対等に参加する場にしたいんです。協力するうえで、本当に細かな違いまで、この場で話し合いを続けていきたい。韓国と協力してみたい日本企業の皆さんに、継続的に関心を持っていただけたらうれしいです」

コンテンツを「売る・買う」だけでなく、「日韓がともにつくる」時代へ。言語の違いや仕事の進め方の違いに戸惑いながらも、両国のクリエイターたちはすでに同じ現場で日々奮闘している。初めて開かれた「日韓コンテンツ共創ウィーク」は、その歩みを一過性で終わらせないための第一歩となった。

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プロフィール
李 惠恩 (イ・ヘウン)

韓国コンテンツ振興院(KOCCA) 東京ビジネスセンター長。ソウル出身。2000年梨花女子大学卒業、2002年梨花女子大学大学院修了。同年、韓国コンテンツ振興院の前身である韓国文化コンテンツ振興院に入社。文化原型デジタルコンテンツ事業、漫画、国際イベント開催などの業務を担当。2009年の機構統合設立以降は、広報、音楽、ファッション、地域コンテンツなどの分野でマネージャーとして従事。2025年1月より東京ビジネスセンター長に就任。



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