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オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

オンラインアート展の試行錯誤。揺らぐキュレーターと作家の関係

『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
インタビュー・テキスト
島貫泰介
編集:宮原朋之、後藤美波(CINRA.NET編集部)

新型コロナウイルスの流行は、生活様式や労働形態、娯楽のかたちなどにさまざまな影響を与えている。オンラインを活用したコンサートや配信による映画公開も、文化の新しい反応の一つだろう。

国際交流基金が主催する『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』も、そんな反応の一つである。主に新作を発表する10人の現代美術作家、1人の物故作家の旧作によって、「距離を翻訳すること」をテーマに、映像配信というかたちでのオンライン展覧会を開催するという。

そのキュレーションを担当した木村絵理子(横浜美術館主任学芸員)、野村しのぶ(東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター)、桝田倫広(東京国立美術館主任研究員)の3名(本展にはもう1名、森美術館シニア・キュレーター近藤健一も担当しているが、本取材では都合があわず不参加)と、出品アーティストで現在はベルギーを拠点とする奥村雄樹を招き、同展について聞くことにした。

本来キュレーターとアーティストの役割は明確に分かれているが、今回は奥村のユニークなアイデアによってその関係性は大きく揺らいでいるという。オンラインという新しい空間で行われる実験とはいったい何か?

(メイン画像:左上から時計回りに、木村絵理子、桝田倫広、野村しのぶ、奥村雄樹)

オンライン展覧会『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』は2021年3月30日(火)~5月5日(水・祝)に開催
オンライン展覧会『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』は2021年3月30日(火)~5月5日(水・祝)に開催(展覧会サイトはこちら

言語や文化の違いによる距離感、コロナ禍のソーシャルディスタンス──「距離」もその人の意識次第で解釈が変わりうる

―『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』は、日本の現代美術作品を映像配信で紹介するオンライン展覧会です。どんな経緯で企画されたのでしょうか?

木村:主催は国際交流基金なのですが、同基金はこれまでも日本の芸術文化を海外に紹介する取り組みを継続しており、現代美術の分野でも定期的に海外での展覧会を企画してきました。けれども昨年来の新型コロナウイルス感染拡大の影響で、実際にアーティストやキュレーターが外国に行って展覧会を行うことが難しくなってしまっています。

そこで我々4名(この日は不参加だった森美術館シニア・キュレーター近藤健一を含む)がキュレーターとして指名され、映像を主体としたオンライン展覧会を作ってほしいという依頼があったんです。

それが昨年の夏の終わりぐらいでしたが、コロナ禍の状況が比較的落ち着いているタイミングでもあって「もしかしたらリアルな展覧会も行えるのでは?」「オンラインで展覧会をやるとして、観客にどう受け止めてもらえるだろうか?」といった議論や疑問もたくさん浮かび、さらに「映像を主軸に考える際に、たとえば映画のような表現は入れるのか?」と自問自答するようになったんですね。

木村絵理子(きむら えりこ)<br>横浜美術館・主任学芸員 Photo:KATO Hajime
木村絵理子(きむら えりこ)
横浜美術館・主任学芸員 Photo:KATO Hajime

―コロナ禍のなかで、現代美術のキュレーターのみなさんも悩まれたんですね。

木村:そうなんです。企画が立ち上がった初期は、映像に限らず、いろんなメディアを取り込んだオンライン展覧会のあり方を考えてみたりだとか、そもそものフレームについて議論することにかなりの時間を割いてしまいました。

結果としては、コロナも現在のような状況が続いていますから映像メインの内容に落ち着きましたが、現代美術ならではの、映像的な概念に限定されないアプローチを選択することになり、そういったアイデアを実現できるアーティストにお願いしようということになりました。

野村:「距離」というキーワードは、早い段階から出ていましたよね。そして奥村さんからは、展覧会のタイトルが決定するまでの過程を作品にしたい、ついては議論の内容を共有してほしいというリクエストがありました。「私たちが話すことが全部、筒抜けになってしまうのか!」という緊張感を持ちながら企画会議を進めることになりました(苦笑)。

野村しのぶ(のむら しのぶ)<br>東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター Photo:伊丹豪
野村しのぶ(のむら しのぶ)
東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター Photo:伊丹豪

―そのアイデアも面白いですし、キーワードになった「距離」も非常に今日的で興味深いです。

野村:国際交流を前提とした企画ですから、言語の違い、文化の違いの距離感は常に議論されてきました。さらにソーシャルディスタンスが意識され、行動制限で海外に気軽に行けなくなった状況は、まさにコロナ禍以降の新しい制約ですね。

同時に、こうした制約はネガティブに思えるけれど、本当にそれだけなのだろうか? という話もありました。現在のようにリモートで簡単に会話できなかった頃も遠くに住む友人との友情は薄れませんでしたし、気軽に会えないからこそ思う気持ちが強くなることだってありました。つまり「距離」も、その人の意識次第で解釈は変わりうる。

さらにこの問題は、奥村さんが作品のなかでたびたび扱ってきた「翻訳」にも生じるものでもあります。翻訳するプロセスでは、翻訳者の解釈、その人の主観が入ってくるわけですから。

桝田:そういったテーマに関する長い議論があって、その後、急いで各アーティストに参加依頼をしていきました(苦笑)。

桝田倫広(ますだ ともひろ)<br>東京国立近代美術館・主任研究員
桝田倫広(ますだ ともひろ)
東京国立近代美術館・主任研究員

奥村:僕のところに依頼があったのが、たしか11月中旬だったはず。じゃあ、そのときには距離や翻訳のテーマはある程度決まっていたんですね。

桝田:そうですね。制作期間が短い点、オンライン展覧会のために新作を作るという点でも、かなり厳しい依頼をアーティストにお願いしていると自覚しつつ……。でも、みなさんから快くお返事いただいて心強かったです。

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イベント情報

オンライン展覧会『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』
オンライン展覧会
『11 Stories on Distanced Relationships: Contemporary Art from Japan(距離をめぐる11の物語:日本の現代美術)』

2021年3月30日(火)~5月5日(水・祝)

主催:独立行政法人 国際交流基金
参加作家:
荒木悠
潘逸舟
飯山由貴
小泉明郎
毛利悠子
野口里佳
奥村雄樹
佐藤雅晴
さわひらき
柳井信乃
吉田真也
キュレーター:
木村絵理子
近藤健一
桝田倫広
野村しのぶ

プロフィール

木村絵理子(きむら えりこ)

横浜美術館・主任学芸員、ヨコハマトリエンナーレ2020企画統括。主な展覧会に、“HANRAN: 20th-Century Japanese Photography”(ナショナル・ギャラリー・オブ・カナダ、オタワ、2019-2020)、「昭和の肖像:写真でたどる『昭和』の人と歴史」(2017)、「BODY/PLAY/POLITICS」(2016)、「蔡國強:帰去来」(2015)、「奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている」展(2012)、「高嶺格:とおくてよくみえない」展(2011)、「束芋:断面の世代」展(2009-2010)、「金氏徹平:溶け出す都市、空白の森」(2009)ほか。この他、横浜トリエンナーレ・キュレーター(2014、2017、 2020)、關渡ビエンナーレ・ゲストキュレーター(2008、台北)、釜山Sea Art Festivalコミッショナー(2011、釜山)など。

桝田倫広(ますだ ともひろ)

東京国立近代美術館・主任研究員。主な展覧会に「ピーター・ドイグ展」(2020)、「アジアにめざめたら:アートが変わる、世界が変わる 1960–1990年代」(共同キュレーション、東京国立近代美術館、韓国国立現代美術館、ナショナル・ギャラリー・シンガポール、2018–2019)、「No Museum, No Life?―これからの美術館事典 国立美術館コレクションによる展覧会」(共同キュレーション、2015)、「高松次郎ミステリーズ」(共同キュレーション、2014–2015)など。

野村しのぶ(のむら しのぶ)

東京オペラシティアートギャラリー シニア・キュレーター。主な展覧会に「カミーユ・アンロ|蛇を踏む」(2019)、「単色のリズム 韓国の抽象」(2017)、「サイモン・フジワラ|ホワイトデー」(2016)、「ザハ・ハディド」(2014)、「さわ ひらき Under the Box, Beyond the Bounds」(2014)、「エレメント 構造デザイナー セシル・バルモンドの世界」(2010)、「都市へ仕掛ける建築 ディーナー&ディーナーの試み」(2009)、「伊東豊雄 建築|新しいリアル」(2006)、「アートと話す/アートを話す」(2006)。外部の仕事に《都市のヴィジョンーObayashi Foundation Research Program》推薦選考委員、「シアスタ−・ゲイツ」(2019)、「会田誠展「GROUND NO PLAN」(2017)。

奥村雄樹(おくむら ゆうき)

1978年、青森県生まれ。現在、ブリュッセルとマーストリヒトを拠点に制作活動を行う。奥村は、ビデオ、インスタレーション、パフォーマンス、キュレーション、翻訳など多岐にわたる実践に取り組んできた。例えば彼は1960年代から70年代にかけての美術動向や、河原温といった実際の作家などを取り上げ、再解釈や翻訳によってそれらに介入し、時にはフィクションのような挿話や設定を挟む。その過程で不可避的に生じる主客のずれによって、凝り固まった諸関係は一時的であれ可変的なものになる。近年の主な展覧会に、「29771日–2094943歩」(ラ・メゾン・デ・ランデヴー、ブリュッセル、2019)、「彼方の男、儚い資料体」(慶應義塾大学アート・センター、東京、2019)、「Na(me/am)」(コンヴェント、ゲント、2018)、「奥村雄樹による高橋尚愛」(銀座メゾンエルメスフォーラム、東京、2016)など。

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