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いま、郊外が面白い。府中を変えようとする芝辻ペラン詩子の試み

いま、郊外が面白い。府中を変えようとする芝辻ペラン詩子の試み

『フェット FUCHU TOKYO 2018』
インタビュー・テキスト
柏井万作
撮影:豊島望

カルチャーの拠点は、都会から郊外へ?

「いま、カルチャーは郊外が面白い」。そんな意見にすぐ同意してくださる方は多くないと思うけど、渋谷や原宿、新宿、下北沢などの「都会」の求心力が弱くなったという話については、そこまで意見がズレることはないように思う。

いまや家にいれば、Amazonが何でも届けてくれるし、Uber Eatsがご飯を買って来てくれる。NetflixやSpotifyというデジタルライブラリーは、僕たちが死ぬまで新鮮な音楽や映画やドラマを提供してくれるだろう。とにかく便利でインスタントな時代になった。昔みたいに、雑誌で話題の場所をチェックして、ちょっと緊張しながら都会に出かけていく、みたいなことはもう不要。怖い人がたむろってる雑居ビルにレコードを探して踏み込んだり、ブート盤を探して西新宿を歩き回り、チンピラに絡まれたりする必要は、もうない。

こうやって振り返ってみると、自分が思う以上のスピードで、街のあり方が変わってきていることに改めて驚く。渋谷系から20年、再開発まっただ中の渋谷なんて、大きな商業ビルの建設ラッシュだ。若者の街と言われていた渋谷も、いつの間にかビジネスマンの街になっているかもしれない。

下北沢も、駅の改札がどこにあるのかわからないくらい、大規模に街が変わっている。下北沢の再開発に反対した「Save the 下北沢」を取材したのはもう10年以上前のことになるけど、下北に個性的な個人店が集まったのは、大きな道路がなく、小さな道が入り組んでいるからだと聞いた。数年後に完成する予定の大きな道路ができたら、下北沢はどうなるんだろうか。「ファスト風土化」という言葉が生まれたのも「Save the 下北沢」を取材した頃だったけど、日本の風景は確かに均質化して、いまや都会の街々も、その波に飲み込まれようとしているように見える。

街の役割の変化。そして、「郊外」について語るべきいくつもの文脈が表面化し始めている

街が均質化していく一方、ネットやスマホの普及で人々のコミュニケーション手法は多様化した。ドコモがi-modeを始めたのが1999年だから、渋谷系の時代は、携帯電話すらなかったわけだ。平成生まれの人は知らないと思うけど、当時は良くて「ポケベル」で、それまでは家の固定電話でやりとりしていた(!)。

渋谷系レコード文化を牽引した橋本徹は「自分が好きなものに対する共感者を増やせるチャンスが広がった時代」とインタビューで当時を振り返っていたけれど、雑誌くらいしか情報入手手段がない時代、人は街に集まるしかなかった。都会のレコ屋やクラブやライブハウス、洋服屋、本屋やミニシアターなんかに行って、情報や物をゲットする。趣味を同じくする共感者たちと出会い、遊び、情報交換をしに、街へ出かけて行ったのだ。

しかしいま、そういった街の役割はネットへ吸収されていき、共感者と繋がることも、情報を得るのも、比較的容易になった。同時に、共感者たちが集うリアルな場所も多様化して、いたるところに点在する。そのひとつこそが自分が暮らす「地元」であり、「郊外」からカルチャーの発信が増えてきている理由と考えることはできるだろう。実際、今回取材を行った府中の芸術祭『フェット FUCHU TOKYO』をはじめ、東京郊外発の面白いイベント、プロジェクトが増えてきている。

 11月22日から始まる『フェット FUCHU TOKYO 2018』は、18日間にわたり、府中市内全域45か所を舞台に開催される(サイトを見る)
11月22日から始まる『フェット FUCHU TOKYO 2018』は、18日間にわたり、府中市内全域45か所を舞台に開催される(サイトを見る

例えばCINRA.NETで取材をしている中だけでも、足立区千住地域で行われている『アートアクセスあだち 音まち千住の縁』や、中央線沿線(杉並、武蔵野・多摩地域)に点在しているアートスポットをつなぐ『TERATOTERA』、千葉・松戸のプロジェクト「PARADISE AIR」、横浜市中区黄金町で10年続いている『黄金町バザール』、そしてつい先日開催された『鉄工島FES』(大田区の京浜島)などがあり、いずれも郊外を舞台に様々なカルチャープログラムを展開している。

また一方で、表現者たちが「郊外」に着目する動きも目立ってきた。そもそも「郊外」とは、大都市の外縁部にあり、人が生活を営み、子供を育てるベッドタウンのことだ。言ってしまえば日本のごく一般的な風景。そんな場所で、日本人(アーティストも含む)の多くが生まれ、育っているのだから、表現のテーマとして取り上げるのはごく自然なことなのかもしれない。

一例として自分たちの話をするのは恐縮だが、昨年CINRA.NETが多摩ニュータウンの廃校で開催し、今年も開催間近に迫った文化祭『NEWTOWN』も、そうしたプロジェクトのひとつ。この場所でイベントを始めたのは、会場となった廃校が自分の母校だったという理由も大きかったが、「郊外」「ニュータウン」という言葉に、アーティストたちが強く呼応してくれたのは嬉しい驚きでもあったし(参考記事:Chim↑Pom卯城竜太×中島晴矢 日本郊外でいかにサバイブするか)、我々の動きとは全く関係なく、tofubeatsが「(自分の故郷である)ニュータウンが冷徹な街だとするなら、そこをよくしていくのは、自分なんじゃないか?」と語ってくれたインタビューも、記憶に新しい(参考記事:tofubeatsが「他人任せ」から「自分でやる」に変わったこの3年)。

『NEWTOWN』の会場となった元小学校中庭の様子。その奥には多摩ニュータウンの住宅街が広がっている
『NEWTOWN』の会場となった元小学校中庭の様子。その奥には多摩ニュータウンの住宅街が広がっている(サイトを見る

また、均質化しているように思われていた「郊外」も、アーティストたちが「自分のルーツ」としてそれぞれの町のリアルを発信し始めたことで、各町のオルタナティブな場所性が立ち上がってきてもいる。それをもっとも強く打ち出しているのがラッパーたちであり、近年ではテレビ番組『フリースタイルダンジョン』が大いに盛り上がったり、KOHH(王子)やBAD HOP(川崎)など地元のリアルを言葉にするニュースターたちに、若者の支持が集まっている。

いま、「郊外」を語る文脈が、同時多発的に表面化し始めているのだ。

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イベント情報

『暮らしと表現の芸術祭 フェット FUCHU TOKYO 2018』
『暮らしと表現の芸術祭 フェット FUCHU TOKYO 2018』

2018年11月22日(木)~12月9日(日)
会場:東京都 府中市内

プロフィール

芝辻ペラン詩子(しばつじ ぺらん うたこ)

武蔵野美術大学映像学科卒業後、渡英。The Surry Institute of Art and Design University College( 現 University for the Creative Arts), BA(Hons)Animation卒業。マンチェスターの人形アニメーションスタジオでの研修を終えて帰国。大人の女性の着せ替え人形としてリバイバルした「ブライス」のプロモーション映像ディレクターとなる。2007年頃から、アニメーションのみならず、動くぬいぐるみやオブジェの制作、発表を開始。基本的に社会派、ポップでシュールな世界観が特徴。2009年、結婚を期に独立し、府中の実家を改装したギャラリーカフェ「メルドル」をオープン。2016年に任意団体「Artist Collective Fuchu」を設立して『フェット FUCHU TOKYO 2016』を運営。2018年には、NPO法人「アーティスト・コレクティヴ・フチュウ」創設し、現在は『フェット FUCHU TOKYO 2018』の準備に奔走中。

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