コラム

2019年に心を動かした作品は? カルチャーアンケートを発表

2019年に心を動かした作品は? カルチャーアンケートを発表

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CINRA.NET編集部

【映画】

■久野剛士(CINRA.NET編集部)

1位:カルロス・ロペス・エストラーダ『ブラインドスポッティング』

2位:スティーヴン・マーチャント『ファイティング・ファミリー』

3位:ジェームズ・グレイ『アド・アストラ』

『ブラインドスポッティング』 ©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED
『ブラインドスポッティング』 ©2018 OAKLAND MOVING PICTURES LLC ALL RIGHTS RESERVED

2019年は、Netflixで『ル・ポールのドラァグ・レース』にドハマリした1年でした。とりわけ最新シーズン、イヴィが優勝を決めた最後のリップシンクバトルは、歴史に残る名シーンだと思います。なにより優勝を決めたイヴィが放ったひと言が素晴らしかった。「自分に忠実に、フリークであれ」。もう、あの言葉に世界が勇気をもらい、全身を震わせたことでしょう。

ランキングに入れた『ファイティング・ファミリー』の主人公サラヤは、ラストにイヴィとほとんど同じことをプロレスのリング上で言い放ちます。そのとき、私はサラヤにイヴィの姿が重なって見え、涙が出そうになりました。

また『ブラインドスポッティング』も、ある種のフリークの物語といえます。ブラックパンサー党発祥の土地、オークランドで育った親友の黒人コリンと白人マイルズ。コリンは白人警官に怯えて生き、マイルズは黒人コミュニティーに受け入れられない自身を呪う。そんな彼らの姿に、人種や貧困の問題を改めて考えさせられました。『ブラック・クランズマン』や『アス』『グリーンブック』など、今年も「ブラック・ライヴズ・マター以降の映画」に恵まれましたが、本作はその中でも特に凄みがあったと思います。コリンが劇中で吐くラップは、その切実さゆえに鳥肌ものだったな、と。

そして、劇場で観ている最中、5感が研ぎ澄まされ、感性ではなく知覚に訴えかけてくるような作品にも出会えました。それが、『アド・アストラ』。この映画は、作品自体がSF映画史に、ブラッド・ピット主演作品史におけるフリークのような存在だと思います。いびつな映画ですが、だからこそ愛すべき作品だと信じています。

■矢澤拓(CINRA.NET編集部)

1位:クエンティン・タランティーノ『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

2位:タル・ベーラ『サタンタンゴ』

3位:ナディーン・ラバキー『存在のない子供たち』

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

何をもって「良い映画だった」とするかは本当にそれぞれだ。じんわりと染み入る感動があったのか、心の底から笑えたのか、現実社会の歪みを鋭く射抜いたのか。観る人のそれまで生きてきた経験なりがきっと複雑雑多に現れているだろうから、誰かと映画の話をするのは面白い。

1位に選んだ、タランティーノ監督『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、まさしく監督の経験がつまりまくった映画だ。際限なく好きなものを詰め込み、集大成としてあったこの映画は誰にも何も与えてくれはしない。しかし好きなものを全力で楽しもうとする圧倒的なパワーがあった。それはまるで犬が自分の尻尾を追いかけたり、赤ん坊がよくわからないボタンを押しては無邪気に笑っている、そんな純粋さだ。

1994年の映画ながらどうしても入れたかったのが、7時間18分の上映時間(休憩時間も入れると約8時間!)で話題になり、連日満席だったタル・ベーラ監督『サタンタンゴ』。映画の内容もさることながら、これほど長時間の映画体験を得られる機会は少なく、かつ、自宅ではきっと最後まで観られない。IMAXや4DX、ATMOS上映、屋外映画祭など、映画を「体験」することが一つの娯楽としても受け入れられてきている今、ただただ8時間近くケツを痛めながら修行のように行うプリミティブな映画「体験」に、過去作ながらもっとも未来的な映画のありようを感じた。

レバノン映画『存在のない子供たち』から受け取ったのは上記2作とは全く異なりとても社会的なものだった。国民として認められていない者たちが、私たちの知らない「あちら側」で地獄のような体験をしている。主人公であるゼイン少年は、親や社会から受けた仕打ちを、年端もいかぬ赤ん坊にもしてしまう。しかしこの「あちら側」は、すぐ近くにもある。学校で起きるいじめ、会社での理不尽な体験、表現の不自由、ジェンダー、フェミニズム、有害な男らしさ、気候変動。私たちが「あちら側」だと思っていたものは、視点を変えればいつも近くにあり、今「こちら側」にいるのはたまたまだ。そう突きつけられた気がした。

■井戸沼紀美(CINRA.NET編集部)

1位:三宅唱『ワイルドツアー』

1位:ノア・バームバック『マリッジ・ストーリー』

1位:金子由里奈『眠る虫』

『ワイルドツアー』 ©Yamaguchi Center for Arts and Media[YCAM]
『ワイルドツアー』 ©Yamaguchi Center for Arts and Media[YCAM]

すり減った心をリカバーしてくれた3作を順不同で。三宅唱監督の『ワイルドツアー』で印象的だったのは、登場人物たちが顕微鏡や陽射しを味方につけて、とにかく前進しようとしている姿だった。まるで降る雪に耐えて、芽吹く時を待つみたいに。取材時、きっぱりと「自己卑下も自己憐憫も絶対にしないほうがいい」「自分の持っているものを誇りに思えばいい」と言った監督の姿勢からは、強い雨風から苗を守る人のイメージが連想される。演技をしていた彼ら彼女らも、それを映すクルーも、花が咲き誇る春の夢を、きっと毎晩見続けていたのだろう。そんな信頼関係がひしひしと感じられる、とても幸福な映画だった。

もちろん一度花を咲かせた苗が、次の季節もそうするかはわからない。もしも水をあげようとした手が、じょうろを落としてしまったら。主演俳優2人の、魂のふるえるような演技が終始胸を打つ『マリッジ・ストーリー』は一言で表すなら「離婚についての物語」ということになるだろう。しかしスカーレット・ヨハンソン演じるニコールがある台詞を放ってから、これは「平等」についての映画だと思った。「会話はーーセックスよりよかった / もちろん / セックスも会話と同じ / 愛し合うと全てが等しいでしょ(Everything is like everything in a relationship.)」。たったひとつの言葉や手をひく力の強さだけで、平しさの均衡は簡単に崩れてしまう。世界のピースが欠けてしまう。それでも離婚をとことん描いた同作が、最後に描いた「平しさ」に、希望を見出さずにはいられなかった。

最後に金子由里奈監督『眠る虫』。この作品にはとてもいろいろな生き物が出てくる。老若男女、閉じたカフェ、石、亀、犬、幽霊。違う形をして、違う記憶を持つ命と、どうしたら手をとってゆけるだろうか。それは自分で考えようとしても、すぐさま遠い目になってしまいそうな大きな問いだけれど、この映画のバスに乗れば違う。明石農園の明石誠一さんはインタビューで、同じ種でも早生(わせ)と遅れて採れる晩生(おくて)とに分かれるのは、その年の気候によってどちらが生き残るかわからないから、リスクを分散しているからなのだと教えてくれたけれど、『眠る虫』を観て思うのは、そんな風に必然的にばらけた生が鳴らす、ひとつのメロディーのことだった。わかりあえなさについて悶々と考えることが多かった気がする今年、この映画の雄大な視点に勇気をもらいました。何のしがらみにも絡め取られず、これからも映画を撮り続けて欲しい!

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